(54)勉強代を天引き!?
合理的理由ない不当な天引き
まず、賃金額については最低賃金法による規制があります。事業所がある都道府県によって異なる地域最低賃金が適用されます(例、京都府は現在729円)。これを下回る場合には、差額の支払いを求めることができます。
次に、仕事上の「ノルマ」と「勉強(講習)代」は、通常、相互に関係がありません。ノルマを理由に、勉強(講習)代を天引きすることには合理的理由がなく、不当な天引きです。
賃金形態が単純に労働時間に応じた時間給(時給、日給など)であれば、一定時間勤務して得られる賃金から、ノルマ未達成を理由に一定額を天引きすることは許されません。
労働基準法は、使用者に対して労働契約や就業規則で定められた賃金全額の支払いを義務づけていますので(同法24条)、不当に天引された分の支払いを求めて下さい。また、法違反として、労働基準監督署に申告することができます。
なお、賃金からの天引ではなく、退職した労働者に対して会社側が「研修費用」や「授業料」を請求することも原則として認められません。
入社時から1カ月4万円の講習手数料を支払う旨の契約を結んでいたとして、美容室を経営する会社の元従業員に、勝手に退職したとして、その支払いを求めた事例がありました。
裁判所は、美容指導の実態は一般の新入社員教育と違わないので、その負担は使用者として当然のものであるとし、その契約を「違約金の禁止」(労働基準法16条)に反して無効と判断しました(浦和地裁1986年5月30日判決)。
また、足裏マッサージ学校を経営する業者が、同校への入学を条件にマッサージ店に雇用された元従業員に対して「授業料」約57万円の支払いを求めた裁判で、札幌地裁は、授業の実態は「業務研修」だったとし、業務研修費用は本来、使用者が負担するべきであり、これを授業料として払わせるのは賃金を不当に減額するもので公序良俗に反し、契約は無効だと判断しています(札幌地裁05年7月14日判決)。(「週刊しんぶん京都民報」2010年1月24日付)