先日、先生の講演を聞きました。ヨーロッパなど欧米や韓国などに比べて日本の労働条件は非常に悪いと言っておられましたが、どういう点が良くないのでしょうか。どんな違いがあるのですか?(21歳、男性、京都市)

日本の非正規雇用世界では非常識

(58)欧米、韓国と比較〈1〉イラスト・辻井タカヒロ

 ヨーロッパと日本では、非正規雇用のあり方や労働協約の役割などが大きく違っています。
 日本の非正規雇用は、正規雇用に比べて賃金や待遇があまりにも劣悪です。パートやアルバイトは「被扶養者」であることを根拠に非課税限度額(103万円)や社会保険の被扶養者認定基準(130万円)が年収の上限となっていますが、被扶養者ということで賃金を100万円前後にする仕組みは他の国にはありません。
 有期雇用では「責任を負わない」とか「雇用継続が短い」ことが、また派遣労働は「派遣先と派遣元で企業が違う」こと等が賃金の違いの根拠となっています。これらは日本だけの差別正当化の口実です。労働法的には合理的な根拠と言えません。
 EU諸国でも、確かにパート、有期雇用、派遣労働などの「非典型雇用」が広がっており、通常の典型雇用(フルタイム、常用、直接雇用)とは違って、不安定な雇用という点では日本と同様です。
 しかし、EUのパート労働指令、有期雇用指令、派遣労働指令などで、典型雇用との「均等待遇」や「差別禁止」を明確に定めています。雇用不安定だからこそ、非典型雇用には均等待遇を保障してバランスをとり、それを雇用政策や労働法の基本とするのです。フランスでは、有期雇用や派遣労働は、期間中の総賃金の10%を「不安定雇用手当」として義務づけるなど、雇用不安定のマイナスを補う制度を導入していま
す。
 韓国でも非正規雇用が拡大しています。しかし、被扶養者であることを根拠とする低賃金の仕組みはありません。06年制定の「非正規職保護法」では、(1)有期雇用や派遣労働も正規雇用と賃金などで差別があれば差別是正措置を求めることができますし、(2)2年経過すれば正規雇用転換が義務づけられています。
 「非正規雇用は不安定な雇用のままで、正規雇用より賃金が低い」というのが日本の常識ですが、これは「世界では非常識」なのです。(「週刊しんぶん京都民報」2010年3月28日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。