(62)持ち帰りの残業代
明確に残業を認めさせる
法的には賃金が支払われるべき「労働時間」は、使用者(会社)の指揮命令の下で労働する時間です。明確な残業命令があれば当然ですが、仮に残業指示がなくても労働時間と認められる場合があります。
多数の行員が午後7時以降も業務に従事する実態があったこと等から、終業時刻(5時)以降少なくとも午後7時までの勤務が「黙示の指示による労働時間」であり、時間外勤務に当たるとして賃金の支払いを命じた判決があります(京都銀行事件・大阪高裁2001年6月28日判決)。
自宅での業務も使用者からの明確な指示があれば「労働時間」といえます。事務業務は、最近ではコンピュータによる文書作成が普通で、インターネットによる作業の指示や管理も一般的です。
自宅での業務も「労働時間」と評価できる場合が増えていますので、自宅残業を使用者(会社)が明確に指示した場合はもちろん、事実上黙認している場合には「黙示の指示による労働時間」として残業手当などの支払いを求めることができます。
しかし、ご相談では上司が「残業はできない。帰りなさい」と言っているとのことです。会社が厳格に自宅残業を禁止しているときには、労働者がそれに反して自宅で業務をしても労働時間に当たらないとされる危険性が高いです。
もちろん、多くの社員が自宅残業をしているなどの実態があり、上司の自宅残業禁止指示が「建前」に過ぎないときには争う余地があります。
しかし、職場で残業をする場合と違って、自宅は本来私生活の場です。自宅残業が「労働時間」であるという労働者側の主張や立証は簡単ではありません。
要するに、後から争うのは難しいので、上司が「帰りなさい」と言った時点で「それでは仕事が処理できません」と言って、明確に残業を認めさせることが必要です。個人で問題にするのが難しいときには、地域や職場の労働組合に相談して団体交渉をすれば、これまでの残業代の支払いだけでなく、業務改善を求めることも可能になると思います。(「週刊しんぶん京都民報」2010年5月30日付)