(63)突然定年制を導入
同意や合理的理由なしにはできない
従来、会社に定年制がなかったとすると、就業規則を変更して新たに定年制を設けることになると考えられます。この場合、(1)就業規則は、法律に反して変更することができません。また、(2)定年制導入や賃金切り下げは、労働者にとっては重大な労働条件の不利益変更になります。こうした不利益変更には、労働者の同意とともに、変更に明らかな合理性があることが必要です。会社が同意や合理的理由なしに労働条件を一方的に変更することはできません。
ご相談の場合、(2)の不利益変更の効力を問題にするまでもなく、高年齢者雇用安定法という法律で、1998年4月1日から事業主は定年制を定める場合、60歳を下回ることができません(同法8条)。55歳定年制は、明らかに60歳以上の定年制を義務づける同法8条に違反して、法的に無効となります。
また、58歳を定年としていた会社が60歳定年制を導入せざるを得なくなり、その代わりに、58歳になった従業員には給与が大きく下回る専任職規程を導入した事例がありました。裁判所は、58歳からの専任職規程には合理性がないとして就業規則の変更が無効だと判断しています(牛根漁業共同組合事件・福岡高裁宮崎支部2005年11月30判決、最高裁もこれを支持)。
その後の高年齢者雇用安定法改正で、06年4月から、60歳以上定年制はそのままで、少なくとも年金受給開始の65歳まで会社が雇用継続義務を負うと定めることになりました。
ご相談の場合、会社側に同法の趣旨を理解させて、できれば、(1)定年制導入の中止を、それが無理なら、(2)65歳定年制か、65歳までの雇用継続を、最低でも(3)55歳定年制撤回、60歳定年制を要求することができます。
また、都道府県労働局に対しては、違法な定年制を導入する会社を指導するように申告することができます。できれば労働組合で取り上げて、個別の解決ではなく、団体交渉で会社側に対抗することが重要だと思います。(「週刊しんぶん京都民報」2010年6月13日付)