(65)研修費用の返却
会社業務に必要なら返還の義務はない
会社業務に必要な研修であれば、研修費用を返還する必要はありません。労働者が退職を希望しているのに、会社(使用者)が、労働者の「退職の自由」を制約するような金銭の支払いを求めることは、労働基準法に違反する可能性があります。すなわち、同法16条は、使用者が、労働者の契約不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定することを禁止しているからです。
使用者は、研修費用を出したのに労働者が十分に働かないまま退職するのは元が取れないということを理由に、退職する労働者に費用返還を求めるのだと思います。そして、形式だけ研修費用を貸与することにして、労働者が一定期間、会社に勤務したときには返還を免除するといった条項を定める例がよく見られます。
使用者が返還要求をするには、研修費用補助について就業規則などに何らかの条項や要件が記載されているはずです。まず、その記載内容を正確に確認することが重要です。
本来、研修が会社業務に関連するときには、その費用は会社が負担すべきです。ただ例外として、研修が、もっぱら労働者個人の能力形成を目的とし、それを会社が支援している場合、研修費用を貸与する契約は労基法違反とは言えません。
たとえば、1年間、英語研修のためにアメリカに留学させてもらう等、「特別な便宜」として会社が研修費用を貸与するといった場合です。英語力は個人的能力と言える性格が強いので、こうした場合、一定の返還義務が生ずるといえます。
しかし、こうした例外的事例は少なく、ほとんどが金額も数十万円程度で、業務に関連した研修ですので、使用者(会社)がその費用を負担すべきものと言えます。
労働者が退職して研修成果を活かせないのは、育成した人材を大切にしない会社の人事管理のせいです。会社が費用返還しない労働者の退職を認めないのは労基法違反です。一人でも対抗できますが、地域労組などに相談すればより強く対抗できます。(「週刊しんぶん京都民報」2010年7月11日付)