(70)電車事故で遅刻
不当制裁の減額分は全額支払請求できる
労働基準法第24条は、使用者に「賃金の全額払い」を義務づけています。給料(=賃金)から3万円を引くことは同条違反になります。労働者が遅刻して仕事をしなかった時間分の賃金を、使用者が支払わないことは、この賃金全額払いの原則に違反しませんが、それとは別にペナルティ分を給料から引くことは原則として許されないのです。
ただ例外として、遅刻が「就業規則に基づく服務規律に違反する場合」には制裁として減給が許される場合があると解されています。常時10人以上の事業場では、使用者には就業規則作成が義務づけられており、「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」は、必ず、この就業規則で定める必要があります。そうした「減給処分」は可能ということになります(労働基準法89条)。
しかし、労働基準法第91条は、「就業規則で減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定めています。
労働行政は、「遅刻早退についてその時間に比例して賃金を減額することは違法ではないが、遅刻早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、労基法91条の適用を受ける」と解しています。
ご相談の場合、遅刻でも、電車事故など正当な理由があり、労働者に責めがある「非違行為」ではなく、「職場の規律を乱す」という制裁事由には当たりません。
労働者に不利益を課す制裁(減給)処分は、(1)処分事由、(2)手続き、(3)処分が相当かなど、厳格で公正に行われる必要があり、使用者(会社)が勝手な判断で自由に行うことはできないのです。
要するに、3万円のペナルティは「不当な制裁」と考えられ、減額分全額の支払いを求めることができます。使用者が支払わないときは、労働組合に相談したり、労働基準監督署への申告などで対抗することが十分に可能です。(「週刊しんぶん京都民報」2010年10月3日付)