「故郷を離れた悲しみを乗り越えられたのは支援者のおかげ」。福島第1原発事故から10カ月。福島など5県から京都市内に自主避難してきた被災者は、支援者から励ましを受け、生きる勇気を得たと語ります。避難者と支援者との新たな絆が生まれました。

おびえていた子どもたちが

 「ただいま。今日は、みんなと一緒に宿題しようかな」
 ここは、避難者約80世帯、220人が暮らす伏見区の公営住宅内の集会所。一室には、近くに住む瀬戸圭子さん(64)らが10月から開設した「子ども文庫」があります。
 毎週木曜日、子どもたちが次々と集まってきます。「文庫」の貸し出しと絵本の読み聞かせなどのイベント開催日。この日のイベントは、親子一緒のダンス。参加者は40人余りです。
 ダンスの先生が声をかけます。「みんなゴリラになって踊ろうよ」
 ママと一緒に踊った小林愛美ちゃん(7)は、「みんなとお友達になれた。来週も来た~い」と笑顔一杯で言います。
 「文庫」開設のきっかけは、同住宅に発足(8月)した避難者の会と支援者との意見交換会(9月)です。
 避難者の多くは、家族と離れ離れ。二重生活による経済的負担、将来への不安を抱えます。
 瀬戸さんは、開設の動機について「私も単身赴任の転勤を経験してきました。心細さは痛いほど分かります。少しでも、心を癒してもらいたかったんです」と言います。
 「文庫」には、伏見区のボランティアグループ「伏見楽舎」が協力しました。金閣小学校(北区)や明親小学校(伏見区)、伏見区中央図書館などに呼びかけ、1800冊の本を集めました。本棚も手作りで設置しました。
 両親と子どもと一緒に避難してきた「会」の代表、西山祐子さんは、「感謝の気持ちで一杯です。2歳の子どもは事故以来、おびえて『ふくしま、あぶない』と私にしがみついていました。おかげで、ようやく笑顔がもどりました」と話します。

交流会をきっかけに

 「交流会」をきっかけに、京都民医連の支援も始まっています。
 12月4日、日曜日。京都民医連の京都城南診療所(伏見区)で、避難者のための集団健康診断が行われていました。医師の問診と被ばくの影響が出やすい甲状腺調査を追加した血液検査をします。京都では初めてです。
 診療所職員が総出で対応。ワゴンカーでの受診者の送迎、大人が受診の間、一緒に来た子どもたちの面倒も見ました。
 診察を待つ34歳の女性は、「本当は、健康診断は東京電力や国の責任でやることだと思います。民間の診療所がここまでしてくれるなんて。感激です」と言います。
 民医連は、団地集会所で助産師や栄養士、看護師による子育て相談や免疫力のつく食生活の講習・試食会なども開催。今後、子どもの健診も計画しています。
 このほかにも、市内のボランティアグループが、団地の周囲の草刈りをしたり、古里の味を楽しんでもらおうと「芋煮会」を開催。12月には、募金で購入した64台の湯沸し器を団地の各部屋に設置。年末には、福島と京都を結ぶシャトルバスを走らせます。
 西山さんは「私たちが知らない土地で暮らしていけるのも、支援のおかげ。私たちを通じて、京都の人に原発事故を自分の事として考えてほしい。私たちも、応援を力に福島に残ったみんなを励ましていきたい」と言います。
 前出の瀬戸さんは「避難者の苦労を見るたびに、原発事故は人ごとではありません。応援活動をずっと続けていきたい」と力を込めました。
「週刊しんぶん京都民報」2012年1月1日付掲載)