スペシャルインタビュー日本ペンクラブ会長・作家・浅田次郎さん「全原発廃炉が最優先」
原発の是非国民投票で問え
──浅田さんは昨年4月、日本ペンクラブの視察団の一員としてチェルノブイリの原発事故現場を訪問しました。6月に連名で大飯原発再稼働決定の撤回を求める声明を、10月には原発の新設工事中止と全原発の廃炉を求める声明を、それぞれ発表しました。
日本政府は日本の科学技術を発展させてきた成果が原発だ、「原発は安全だ」と言ってきた。しかし事故が起こってしまった。問題の原子炉を抑え込めるのか、事故にどう対応するのか、日本の科学技術が試されている。情報をすべて公開し、国民の英知を集め、国家の威信をかけて対応すべきことだと思います。
ところが、野田政権は「2030年までに原発ゼロ」にすると「脱原発」を公言しながら、大飯原発(福井県おおい町)の再稼働を強行し、大間原発(青森県大間町)の新設工事を認めてしまった。
総選挙の結果、自民党が勝利し、野田政権の「2030年までに原発ゼロ」という「廃炉政策」も白紙に戻った。事実上の推進ですよ。原発はいらないという国民の声を政治に反映させるために原発の是非について国民投票すべきだと思います。
目先の利益で動いてはいけない
──昨年6月の声明では、大飯原発を再稼働させるという野田首相の決断は、政府・電力会社・関連業界と一部の専門家による隠微な「原子力ムラ」を生き延びさせ、「原子力マネー」漬けになった原発立地自治体の自治能力を腐食させることでしかない、と断罪しています。
「原発ゼロ」と言っていた野田首相は、「経済が沈んでは国民生活が維持できない」という経済界の圧力を受けて再稼働を決めてしまった。これはピストルを頭に突きつけられているのに、今晩のメシの話をしているのと同じですよ。
福島第1原発の事故原因もわかってないわけだし、原発内の放射能廃棄物がどうなっているのかもわからない。国民の命が危険にさらされているわけだから、今すぐ全原発を即時停止して廃炉にして、それを解決するのが最優先課題ですよ。
結局日本は戦前から何も変わっていない。財閥が自分の利益を求めて国の行方を決め、戦争までいってしまった。戦後は財閥が大企業に名前を変えただけです。目先だけ考える財界の意を受け、政府は場当たり的な政治を行ってきた。総理大臣が毎年変わるのはそのためですよ。国家経営は5年、10年、20年先を見ながら考えなきゃだめです。
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デモは自由国家のバロメーター
──日本ペンクラブは、日本が国際連盟を脱退した後、文豪島崎藤村らリベラルな文学者によって設立(1935年)されました。平和を希求し、表現の自由に対する弾圧に反対してきました。
政府の原発再稼働や推進の政策についてみんなで声をあげていかなきゃ駄目だと思います。毎週金曜日の官邸前のデモは続けるべきです。日本はデモが極端に少ないと思います。ヨーロッパ諸都市は年がら年中デモとか個人の真剣なアピールをしている。批判精神がありますね。
日本でもぼくが若い頃は、春闘や秋闘なんかすごかった。国鉄が1日、2日ストライキするのはしょっちゅうだし、原稿もって出版社にいっても編集者が鉢巻しめて出てきましたからね。
デモや労働争議は自由主義国家、民主主義国家のバロメーターですよ。ストライキをやめようっていう風潮は民主主義の放棄。デモを監視したり、弾圧したりするのは北朝鮮と一緒だし、ましてやデモを悪くいうのはナチス・ドイツのゲシュタポ(秘密警察)ですよ。
気に入らないことがあったらデモをするのはあたり前。政府が消費税値上げするのになぜデモがないんだろうって思いますね。(「週刊しんぶん京都民報」2013年2月17日付掲載)