シリーズ安倍政権を暴く(1)危ない「教育再生」
安倍晋三首相が主導する『教育再生実行会議』が1月24日に発足した。安倍氏は前首相時の2006年にも『教育再生会議』を設立し、教育基本法「改正」を断行したもとで学校教育法など教育3法「改正」、教員免許更新制、武道必修や「脱ゆとり」路線を反映した学習指導要領の改訂、全国一斉学力テスト実施などを矢継ぎ早に実行し、教育面での存在感をアピールした。
今回の動きは、自民党が総選挙の公約として、「憲法改正」「集団的自衛権の行使」と並んで教育問題では「自虐史観、偏向教育の見直し」「道徳教育の充実」を掲げ、戦後教育を大きく右旋回する方向を打ち出したことを受けて再起動した「教育再生」である。昨秋、安倍氏が自民党総裁に就任直後、党内に『教育再生実行本部』をたちあげ、前任時に積み残した「教科書検定」「教育委員会改革」「学制の見直し」などを検討し「戦後レジームの価値観の転換」に着手しようというもの。
「古色蒼然 」たる面々で
今回発足した『教育再生実行会議』は名称も含めて自民党政策をほぼそのまま持ち込もうとするもので、多様な有識者とされている15人のメンバーの多くは、復古的教育改革を推進してきた面々である。
「事務局担当室」を担う下村博文文科相は自民党「実行本部」の本部長として改革案をとりまとめた人物で、最近、「実行会議」メンバーの進学塾企業などから多額の献金を受け取っていた事実が明るみに出た。高崎経済大教授の八木秀次氏は侵略戦争肯定の「新しい歴史教科書をつくる会」の元会長で男女共同参画を攻撃してきた人物。他にも教育基本法に「愛国心」を盛り込む主張をした河野達信全日本教職員連盟委員長、リクルート事件に関与して文科大臣官房長を辞職後、愛媛県知事として道徳教育を強化した加戸守行氏、全市でコミュニティースクールと小中一貫校を推進した貝ノ瀬滋三鷹市教育委員長、作家の曾野綾子氏など「つくる会」や「靖国派」と言われる「古色蒼然」たる面々で占めている。
特に、八木秀次氏は橋下徹氏と安倍氏を結びつけたブレーンとして、今後の教育施策を右旋回する上で牽引的役割を果たすことが危惧されている。2006年10月に設立された財団法人『日本教育再生機構』の理事長に就任し、「つくる会」の内紛により新たに「教科書改善の会」として編纂した「育鵬社版教科書」の採択に狂奔した。
一昨年夏の中学校社会科の教科書採択では、全国で「歴史」が0から3.7%、「公民」が0から4.0%の採択率で各5万部近く採択され、神奈川では県内1位のシェアで全国約30万人の子どもが育鵬社の「危ない教科書」で今、勉強している。次回(平成27年度)採択では倍増の各10万部採択を目指していると言われている。
京都では、「つくる会」(国枝克一郎京都支部長)が京都府・京都市・福知山市などの議会に「採択を求める」請願を出し可決されたが、私たち「教科書問題連絡会」などの「採択するな!」の運動によって「危ない教科書」はすべて不採択とした。その後、東京都教委などによって必修日本史教科書の現場採択をくつがえす策動や副読本を侵略美化に勝手に改訂したりするなど、歴史教科書「国定化」の声もあり、予断を許さない状況にある。
『日本教育再生機構』は月刊誌「教育再生」を刊行し、毎号で教科書問題や道徳の推進を打ち出し、「13歳からの道徳教科書」に続いて「小学生用道徳教科書」の作成・普及、道徳の「教科化」実現を目論んでいる。また、「食べ物を粗末にするとお天道さまに申しわけない。目がつぶれるよ」など失われた日本人の智恵を教える小冊子「誇りある日本の歴史を学ぼう!『日本がもっと好きになる』」を賛同会員を通して普及している。こうした動きを安倍内閣は全面的に支援している。
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「維新の会」と「安倍派」のドッキング
昨年来、橋下氏を中心とする「大阪維新の会」が「大阪府教育行政基本条例案」「府立学校条例案」などによる「教育改革」を打ち上げたときに自民党の中で真っ先に飛びついたのが当時野党に甘んじていた安倍氏であり、その橋渡しをしたのが八木秀次氏だと言われている。
昨年2月26日に大阪市で開かれた「教育再生民間タウンミーティングin大阪」では、安倍氏と松井一郎大阪府知事、八木秀次氏の3人によるパネル討論があり、自民党と維新の会の「連携確認の場」になったと主催した「教育再生機構大阪」は手放しで評価している。この場に申し込んで参加した人によると受付で持ち物検査をされ、君が代斉唱で始まった会場は黒っぽいスーツ姿の参加者約450人で埋め尽くされ異様な雰囲気であったという。
パネラーの安倍氏は「横浜市長のように信念を持って教委を変え、育鵬社の教科書を採択したのは画期的だ」、「生まれた地域や国を愛しましょうというのは
また、安倍氏は「従軍慰安婦問題」でも昨年11月に米紙に掲載された「慰安婦は世界中のどこにでもある公娼制度」と正当化する「歴史事実委員会」の意見広告に賛同し、年末には「慰安婦を強制連行した資料はない」として「河野談話」の見直しを示唆し、加藤紘一元官房長官からも「右バネききすぎて外交上問題」と苦情を呈されるほどです。
「過去の歴史に正しく向き合い学び、現在を分析し、平和な未来を見通す」という当たり前の歴史観と正反対のスタンスを取る安倍流の「教育改革」は、良識ある声を結集して歯止めをかけなければなりません。(「週刊しんぶん京都民報」2013年2月3日付掲載)