「いつ大地震がきてもおかしくない。原発は止めるべき」│東京電力福島第1原発事故から2年、日本共産党の井上哲士参院議員・参院国会対策委員長は、原発周辺の活断層の危険性を指摘してきた渡辺満久・東洋大教授と対談。活断層・地震の危険性、大飯原発での活断層調査、原発を推進してきた政府の問題などについて語り合いました。

「予想外」の発見活断層の可能性

渡辺満久東洋大学教授

 井上 マスコミへの登場や各地の講演会などで渡辺先生は大活躍されていますね。昨年5月にも国会で原発・活断層問題の学習会をされました。そこに参加したのですが、活断層の専門家である変動地形学という分野を初めて知りました。その皆さんを加えず、特定の研究者が原発の安全審査に関わり、本来は長い活断層を「値切って」いる問題など、目からウロコが落ちるようでした。
 渡辺 ありがとうございます。いくつかの原発に調査に入り、専門の変動地形学の立場から、活断層と原発関連施設の安全性について指摘しています。
 井上 国会の決算委員会でも昨年8月に先生が作成した資料をパネルにして使わさせていただき、大飯原発の危険性について質問しました。その際、第三者的な立場の専門家も参加して、活断層の再調査を求め、政府も検討を約束しました。世論の広がりもあり、その後、昨年10月から渡辺先生は原子力規制庁の大飯原発の調査団に入られました。現地調査の様子を教えてください。
 渡辺 正直言うと、(大飯原発付近の)台場浜で後期更新世(12万6000年前)以降の地層の明瞭なずれが出るとは思っていなかったんです。2号機と3号機の間の地下に南北に走る「F─6」破砕帯の北端部を掘ってみると、出てきちゃったんです。
 井上 「活断層」がですか?
 渡辺 「活断層」というと、地震を起こすものに限定する研究者もいます。ここでは「将来に活動する可能性が否定できない断層」とした方が適切ですね。
 井上 渡辺先生は、調査の前に規制庁へ要望書を出されています。そこでは「活断層の定義は研究者によってばらつきがあるため、定義を統一しなければならない」とされていますね。

隆起、変形する地域に原発が

井上哲士井上哲士参院議員

 渡辺 多分、活断層の定義で意見が分かれるだろうと思っていたので、要望しておいたんですが…。「後期更新世以降に活動した可能性が否定出来ないもの」というのが共通の認識になっています。そのF―6破砕帯は「活断層」の可能性があると言えます。
 井上 どういう点で調査団の意見が分かれているのですか?
 渡辺 全員が、12~13万年前以降に動いたという現状認識は一致しています。問題は、動いた原因について「地すべりで動いた」と主張される方もいるのです。私は「地すべり」は重力に応じて起こりますから、動いた方向的に見て、地すべりではないと考えていますが。
 井上 原発の重要施設を破壊するような事態が起こるかどうかという問題ですね。
 渡辺 そうです。ですから、大飯原発を止め、しっかり調査しなければなりません。
 井上 この間、直下に活断層があるかどうかが1つの焦点となってきました。他に問題点はないのですか?
 渡辺 他にも考慮すべきことがあります。大飯でいうと、東側に3つの活断層(FO―B断層、FO―A断層、熊川断層)がありますが、これらは連動していると考えています(「京都民報」2012年4月29日付で指摘)。大飯原発周辺はこの大断層の影響によって動く「隆起・変形帯」です。つまりこれから地面が隆起し、変形する状況にあると考えられます。

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「値切り」やめて総点検すべき

 井上 仮に原発の重要施設直下に活断層が確認できなくても、地盤が変形して、施設を破壊する可能性があるということですね。大飯原発はただちに停止させるべきです。本来は長いはずの活断層を短く「値切り」、地震の予測規模を小さくし、原発建設にお墨付きを与えてきたやり方は許せません。私も国会で、島根原発付近の宍道断層が値切られていたことや、柏崎刈羽原発で地震を引き起こした海底活断層、能登半島地震を引き起こした海底活断層などでも「値切り」など過小評価があったと指摘し、原発建設時の活断層審査の総点検を求めました。
 渡辺 全国で活断層の「値切り」など過小評価が行われています。なぜこんな危険なところに原発を建てたのか、疑問に思うところがいくつもあります。規制庁の指針では、直下に活断層があるかどうかだけを問題としていますが、問題をわい小化しているのではないでしょうか。
 井上 福島第1原発事故の原因究明も終わってないのに新しい「安全基準」などありえませんよね。規制庁は、敦賀原発直下にも活断層があると報告書をまとめています。これは、渡辺先生が以前の京都民報の紙面(2011年7月17日付)でも紹介されていましたね。
 渡辺 07年から敦賀を調査し、原発施設直下にいくつもの断層が走っていることが分かりました。それも問題ですが、敦賀は原発の敷地内に浦底断層という第一級の「大断層」がある。こんな大きなものがあるのかと驚きました。

「グレーはシロ」で造り続けた

 井上 専門家の方が驚かれるほどのものなんですね。敦賀原発は、明確にこれまでの安全規準も満たさないわけですから当然、廃炉にすべきですよね。
 渡辺 本来そうすべきですが、原電さん(敦賀原発を持つ日本原子力発電)が頑張っていますね。巻き返しが始まっていると感じています。
 井上 自民党が政権に復帰し、「原子力ムラ」の抵抗が強まっていますね。例えば、志賀原発の石川県安全管理協議会で、ある研究者は「基礎は鉄筋とコンクリートで固めている。(断層が動いても)皆さんの心配するようなことはない」と、直下に活断層があっても大丈夫と主張しています。
 渡辺 大規模な断層のずれや揺れは巨大なエネルギーです。それを人工的に止められるとはとても思えません。
 井上 電力会社と一緒になって、原発推進の研究者がどんどん都合のいいお墨付きを与えてきたのですね。国会の福島原発事故調査委員会の報告でも、「規制当局(保安院)が電気事業者の『虜(とりこ)』になっている」という結果が出されました。
 渡辺 規制庁ができて、私のような変動地形学の専門家も調査団に入るようになりました。それまでは、電力会社や政府の調査には入れなかったんです。ところが、最近は「変動地形学者が多く、偏っている」という批判が出されてきました。
 井上 「虜」になった人たちが巻き返し、原発を動かそうと必死になっています。国民の安全よりも電力会社などの都合を優先する態度には憤りを感じます。
 渡辺 大きなリスクを持つ原発は、当然安全なところに建るべきです。「疑わしき(グレー)はクロ」とすべき。しかしこれまでの原発建設では、「グレーはシロ」として判断してきたのが大きな問題だと思います。
 井上 気象庁の地震に関する「Q&A」では、「日本で地震が発生しないところはありますか?」との問いに、「ある場所で過去に大きな地震が発生していたとしても、過去に痕跡(活断層など)が残らないことがあります。このため『この場所は大きな地震が絶対ありません』と言えるところはありません」としています。国として大規模な地震がどこにでも起こると認めているのに54基も原発を造ってしまった。

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「正しい」ことさらに追及を

 渡辺 よく『渡辺は原発反対派だ』と言われるんですが、私自身は原発反対という立場ではありません。危険なところに原発は建てたらダメと言っているだけです。その立場で見ると、ほとんどの原発は活断層近傍の危険なところに造られているのです。日本には活断層がない場所もありそうですが。
 井上 渡辺先生は、福井県など各地で講演されていますが、説得力のある調査内容に、たくさんの人が励まされています。私たちは原発はすべて停止させ、そのまま廃炉に向かう「即時原発ゼロ」が一番の道と訴えています。国会・政治に期待することはありますか? 
 渡辺 私は支持政党はありません。正しいこと、まっとうなことを明らかにしてほしいですね。井上さんは国会でも原発について追及されてこられたので、さらに頑張ってほしいと期待しています。
 井上 ありがとうございます。さらに原発・活断層の問題について追及していきたいと思います。頑張ります。(「週刊しんぶん京都民報」2013年3月31日付掲載)

 わたなべ・みつひさ 新潟県生まれ。東京大学理学系研究科地理学専攻博士課程修了。東洋大学社会学部教授、理学博士。専門は変動地形学。国内外各地で活断層のトレンチ調査を実施。昨年10月から実施されている大飯原発現地調査に外部専門家として参加。「わたしの3・11」(毎日新聞社)、「『最悪』の核施設六ヶ所再処理工場」(集英社新書)、「活断層地形判読」(古今書院)、「日本の活断層」(東大出版会)などを共同執筆。
 いのうえ・さとし 山口県徳山市生まれ。広島市で育ち、京都大学法学部卒業。梅田勝衆院議員秘書、「しんぶん赤旗」政治部記者、党京都府委員会常任委員・政策委員長を歴任。01年7月参議院選挙で初当選。議院運営委員会理事、法務委員会理事、憲法調査会委員、文教科学委員、外交防衛委員などを歴任。現在、法務委員会、決算委員会、政治倫理選挙制度特別委員会に所属。参院幹事長、国会対策委員長、党中央委員。