「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の中野晃一・上智大学教授が6月14日、京都市内で講演し、安倍政権の危険性を告発し、市民と野党の共闘の到達点について語りました(京都第一法律事務所主催の講演会)。講演の大要を紹介します。

■選挙制度の弊害大きい

 この安倍政権、一体何なんでしょうね。まるでゾンビのような気持ち悪さで、野球で言うと10回くらいアウトになったのにまだバッターボックスに立っているのが安倍首相。悩みながら、うんざりしながらやっているのが、正直な気持ちです。

 森友問題での公文書改ざん、加計疑惑、自衛隊の日報隠ぺいでは南スーダンだけじゃなくてイラクでもあり、さらにセクハラ問題まで起こしている。

 官邸前の抗議行動でも、わざわざ週末に出かけて、「うそをつくな」とか「公務員頑張れ」とか言っているわけです。日本の政治は本当に大丈夫なのか? レベルが低過ぎて、怒りを持続するのが難しいという問題に直面しています。抗議行動に参加して「今日なんで来ていたんだっけ?」と思うこともありませんか?

 私は根本的には選挙制度の問題が大きいと思います。実は自民党に投票した人は(有権者の)4人に1人もいないのです。小選挙区制というゆがんだ選挙制度のもとで、自民党が3分の2以上の議席を獲得できているのです。世界でもっとも現職と世襲に有利な制度だと思います。

 いま、日本だけでなく、米国ではトランプ政権が生まれ、ヨーロッパでも極右が第2党、第3党になっているのも特徴です。新自由主義が浸透する中で、リベラルな人たちを攻撃して、求心力を高めるという手法が世界でも広がっています。

 安倍政権もリベラルを叩き、愛国的なイデオロギーを振りまいている。憲法改正でも何をしたいのか分かりません。とにかくリベラルを叩くイデオロギーが先にあり、憲法を改正し、その後何をやるかは米国にお任せする、そんな政権なんです。

 そして小泉政権あたりから構造改革、行政改革だと、「改革の政治」が全面に出てくるようになってきました。成れの果てが橋下・維新の会であり小池百合子氏などもそうです。とにかく「改革する」と言って誰かを血祭りに上げて攻撃し、メディアジャックして議席を伸ばすという政治が行われてきました。

■中立・独立「言えない」

 その中で左派勢力の共産党や社民党は小選挙区制により、実力よりも議席がとれなくなるという事態になった。自民党がかつてとはぜんぜん違う極右政党になった。国会の中で極右政党が圧倒的多数を占める状況になったんです。
 私自身は、イギリスやアメリカに留学して、「学者が政治に関わっちゃいかん」と教わってきました。学者としては中立、独立的にやろうとしてきたのですが、そんなことが言えなくなったんです。

 (選挙で)野党共闘を呼びかけていますが、本来は、候補者を一本化すべきではないと思っています。政策が違うのは当たり前で、それぞれの党の候補が出るのが当然なのですが、それをやっていると、小選挙区制度では負けてしまうんです。

 昨年の10月の総選挙では京都へ来て、本当にわずかな時間ですが、日本共産党の穀田恵二さんの応援をしました。この総選挙では、希望の党が生まれ、野党共闘を分断する重大な逆流が起こりました。その中で穀田さんは野党共闘、候補者一本化への中心的な役割を果たされました。どうしても穀田さんを応援したいと、時間を作ってきたのです。

 当時と比べると野党共闘の流れは大きくなり、潮目は変わりつつあります。野党でもいろんな人がいて、正直、いっしょにやりたくない人もいる。でも諦めたらそこでおしまいなんです。

 若い参加者がたくさん来てくれればいいけれど、なかなか難しいですね。学生も生活が大変で、バイトや授業と本当に忙しい。若者たちでつくるシールズは解散しました。しかし、それぞれいろんな分野で頑張っています。彼らがなぜ立ち上がったのかと言うと、みんな上の世代の人たちの平和教育や民主教育をうけて育った子たちなんです。親や先生から平和問題を学び、広島や長崎、沖縄に行き、勇気があって立ち上がる感性があった。こうした子どもたちが育っていたということです。

■1人区29敗がスタート

 来年の参院選も厳しいたたかいです。13年の参院選では31の1人区のうち、29は自民党が獲った。ここからスタートしなければならないのです。

 市民と野党の共闘ではリスペクト(尊敬)の精神が大事です。それぞれの政党、市民たちそれぞれが違う考えを持っていて、それを尊重して力を合わせていかなければなりません。

 「対案を出すことが大事だ」として、対立することよりも福祉や雇用など「生活争点」を押し出すべきと言われることもあります。でも、きちんと「立憲主義守れ」「憲法改正反対」と掲げて「対立争点」をはっきりさせないと勝てません。難しいですが「生活争点」と「対立争点」の2段仕掛けでたたかうことが大事です。市民と野党の共闘を諦めずに続けていきたいと思います。

(「週刊京都民報」7月1日付より)