北陸新幹線延伸で田畑や山林などの開発が進む中池見湿地付近(福井県敦賀市)
笹木智恵子さん
「悪しき前例」になることを懸念

 希少な生態系を持つ中池見湿地を守る運動を続けています。北陸新幹線延伸の工事が始まり、想像以上に環境を変える工事となっており、影響を懸念しています。

 鉄道運輸機構が国内初の環境管理計画を策定しましたが、これで安心だとはまったく思っていません。むしろ『悪しき前例』となってしまわないかと懸念しています。

 同計画では、工事中の調査をすることが義務付けられています。しかし新幹線完成後の調査の継続期間は短いうえ、完成してしまえば自然を元に戻すことはできません。工事の影響がすぐに出なくても、数年後、数十年後に環境や地下水が変化することも考えられます。人の手が入らないことが一番望ましいのは当然です。

 工事が始まり、私の想像していた以上に環境が変えられ、湿地周辺の山林の伐採、田んぼが埋め立てられるなど、工事が広く行われています。工事現場は、ラムサール条約の登録外の場所ですが、人里と湿地を隔てる山林や田畑も緩衝地として重要な環境です。今後、生態系にどんな影響があるのか不安です。

 もともと環境を大きく変える北陸新幹線延伸には反対でした。しかし、国や県は何十年も前の法律に基づき、当然のように1兆4000億円超もの予算で延伸を推進。県民にまともに賛否を問うこともないまま計画が一方的に進められました。こうした進め方にも問題があると思います。

 京都でも南丹市美山町の「芦生の森」周辺など、貴重な自然がルート候補地に上っています。一度壊してしまった自然は元に戻ることはありません。北陸新幹線はじめ、環境を壊す大型開発優先の政治を見直すべきだと思います。

■福井県敦賀市/中池見湿地 希少な動植物が生息、周辺が延伸ルートに

 福井県敦賀市の中池見湿地(25㌶)と周辺の森林計87㌶は、2012年にラムサール条約湿地(国際的に希少で、多様な生態系を持つ湿地が対象)に登録されました。地下40㍍の泥炭層が堆積し、60種以上の絶滅危惧種を含む約3000種の希少な動植物が生息しています。同湿地周辺が、北陸新幹線の金沢~敦賀(22年度の開業予定)ルートとなっていることから、建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が10月に環境管理計画を策定しました。ラムサール条約締約国会議での提唱に基づき、①予防的措置の実施②不測の事態が起きた場合の緊急対策の事前策定③必要とされた環境保全措置の適切な実施―などの基本方針を設定。地下水位や流量などのモニタリングを継続して行うことや、湿地への水位低下などの影響が疑われるデータが取れた場合の対策も明記しています。