「映画人として戦争の愚かさを訴え続けてほしい、というメッセージを受け取り、走り出していたと感じます」 映画『ドキュメンタリー沖縄戦―知られざる悲しみの記憶』 太田隆文監督に聞く/京都シネマで上映中
沖縄県民の4分の1にあたる約20万人が犠牲となったとされる沖縄戦の悲劇を庶民の立場で描いた『ドキュメンタリー沖縄戦―知られざる悲しみの記憶』(浄土真宗本願寺派製作)が現在、京都シネマで上映中です。メガホンをとった太田隆文監督に、作品で伝えたかったこと、今後の抱負などについて聞きました。
この戦争を傍観者のように描いてはいけないと感じた
―沖縄戦を描く上で、心がけた点は
沖縄戦を扱ったテレビドキュメンタリーをかなり見たんですが、多くが「軍」目線で、ナレーションも「多くの住民が巻き込まれたのでした」と、三人称で客観的に語るものがほとんどだった気がします。
ただ、取材をしていくと、沖縄県民の14歳から70歳までが動員、少年は鉄血勤皇隊等、若い女性もひめゆり学徒であるとか、軍に協力しました。最後に軍の足手まといになると、見放したり自決を迫ったりした訳です。そんな戦争を傍観者のように描いてはいけないと思えました。体験者の証言を中心に、研究者の解説、100時間を超えるであろう米軍の記録フィルムから選んだ映像を生かし、沖縄戦の全貌が分かるものにしようとしました。
集団自決については、「軍が命令した決定的証拠はない」という人たちもいますが、被害者の証言、「軍人が横にいて村長にささやき、村長が村民に自決を命じた」という目撃者の証言、軍が駐留していない地域では集団自決はなかったという事実、専門家の意見も紹介し、観客に考えてもらう構成にしてあります。
今、沖縄の若者でも、沖縄戦のことについて詳しくは知らないという人が増えていると聞きます。だから、全国どの街で見ても、誰が見ても、若い人でも分かるような作品にしようと、努めました。また、僕は本来、劇映画の監督なので、どうしたら退屈せずに見てもらえるだろうかと考え、「これは大切な歴史だから、見なければなりません」という上から目線ではなく、「どうすれば興味を持って最後まで見てくれるか」を大切に作りました。
―現代の政治とつながる点はありますか
当時、軍は沖縄県民の老若男女を動員し、飛行場を作りなさい、防空壕をつくりなさい、兵器を運びなさいと命令しました。しかも、規約の中でお金を払うことになっていたのに、ほとんど支払われなかった。その県民を守ることもせず、最後は「自決せよ」です。
今も同じ。政府は、コロナ対策で、店を閉めろ、会社に行くな、外出するな、とあれこれ要請しています。でも、国がしたのは、なかなか来ない10万円と、虫のはいったようなマスクだけですよね。国民に犠牲を求めるが自分たちは何もしない、という発想は変わっていません。
戦時中も今も、大差ないのではないか? 政府はなぜ、そうなるのか? そんなことも映画を見て考えてもらえたらと思います。
―師匠の大林宣彦監督から学んだことについて話してください。
何か、バトンを受け取っていた感じが、今回の作品をつくって強く感じるようになりました。
大林監督の先輩の黒澤明監督は、戦争を体験した世代。あるとき大林監督に「僕があと100年生きていられたら、映画を使って必ず戦争を止めてみせる。けど、あと100年は生きられない。だから、その思いを君に引き継いで欲しい」というようなことを話されたと聞いています。
そして、大林監督は近年、戦争をテーマにした映画をつくり、今上映中の『海辺の映画館―キネマの玉手箱』でも戦争の怖さを伝えています。
その大林監督からは7年前、ロサンゼルスの映画祭でこんなことを言われました。「太田君。次は君たちの世代の番だ。頼んだよ…」。今年、大林監督が亡くなり、ふと気が付くと、僕も沖縄戦の映画を作っている。映画人として戦争の愚かさを訴え続けてほしい、というメッセージを受け取り、走り出していたことを感じます。
今回はドキュメンタリーで沖縄戦を伝えましたが本来、僕は劇映画の監督。次は沖縄戦を題材としたドラマを作りたいと思えています。劇映画でしか描けないこともあります。いろんな意味で戦争映画が作りづらい時代ですが、何とか形にしたいと思っています。
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おおた・たかふみ 1961年、生まれ。ジョージ・ルーカス監督らが学んだ南カルフォルニア大学映画科に学ぶ。帰国後、大林宣彦監督に師事。2013年、原発事故を題材にした映画『朝日のあたる家』を監督。
『ドキュメンタリー沖縄戦―知られざる悲しみの記憶』上映予定 7日(金)~13日(木)9:55、14日(金)~20日(木)17:50、21日(金)~27日(木)休映、28日(金)~9月3日(木)12:55、京都シネマ(京都市下京区烏丸通り四条下ル水銀屋町620 COCON烏丸3F)☏075・353・4723。1800円、60歳以上1200円、大学生以下・障がい者1000円。