白蓮、秀樹両氏との合作の帯や着物を前に、当時の活動に思いをはせる湯川由規子さん(左)と江上さん

 日本人初のノーベル賞(物理学)を受賞した湯川秀樹博士の妻で、「戦争のない世界」をつくる世界連邦運動に力を注いだ故・湯川スミさん(1910─2006)が愛用した着物や帯などの思い出の品々が自宅で保管されています。遺族は、スミさんの活動に理解のある人に、喜んでもらえる活用法を考えたいと話しています。

 湯川スミさんは、アインシュタイン博士から直接、原爆投下への謝罪の言葉を聞き、核兵器全廃の願いを託された者として、世界連邦運動に身を投じ、世界連邦運動名誉会長、世界連邦全国婦人協議会会長などを務め、96歳の生涯を終えるまで核兵器廃絶を訴えました。非核の政府を求める京都の会のニュースの題字には、いまもスミさんの自書が用いられています。

 世界各国で交流の機会が多かったスミさんは、和服姿で出向き、日舞を披露するなど、日本文化の普及にも貢献。多数の着物を保有し、中には、秀樹博士の和歌と自作の絵を染めたオリジナルの着物、平和運動家として知られる歌人・柳原白蓮(びゃくれん)との友好が見て取れる貴重な帯もあります。

 秀樹博士の研究資料や平和活動の記録、ゆかりの品々が、京都大学湯川記念館史料室などで所蔵されるのに比べ、スミさんの愛用品の保管は、遺族に任されてきました。

 長男の故・湯川春洋(はるみ)さんの妻で、同婦人協議会会長補佐としてスミさんの活動を支えた由規子さんが、身の回り品を管理。長年親交のある江上由香里さん=鍼灸院経営=が相談に乗り、継承する品々があるものの、100着を超える着物の有効活用として、お披露目や、貸し出す機会を考えています。

 「幸ひよ しばしとどまれ 湖のほとりにいこふ 人にわが身に」と秀樹氏が詠んだ歌にスミさんが絵を添えた着物は、由規子さんが結婚して引き継いだ思い入れの深い着物です。白蓮との合作の帯には、「啓示あり らんの開花の よろこびは 君のゆく道 あたらしくする」との歌とスミさんのランの花が互いの直筆で描かれています。白蓮が全国に広げた女性の平和運動団体が合流して、世界連邦婦人の会が誕生し、スミさんが会長に選ばれたことに友好の意が込められたものです。

 江上さんは帯を手に、「戦争に反対し平和を願う当時の女性たちの平和運動や女性運動の歴史の一端を感じる思いです」と話します。生前、スミさんからも「平和憲法を世界に広げなくちゃいけない」と繰り返し聞いたという江上さんは、「平和の願いはもちろん、生活で大事にされた思い出の品も含め、継承していきたい」と思いを強くしています。

 由規子さんは、長年の運動が核兵器禁止条約に実り、発効の時を目前にしていることを歓迎する一方で、条約を批准しようとしない日本政府の姿勢を「被爆国が批准しないことを不思議に思います」と話しています。

 スミさんは2003年、有事関連法の衆院での強行を受けて本紙取材に応じ、「平和を実現するのは世論の力」と述べ、廃案を望む意思表示をしていました。

 連絡先は、江上鍼灸院☎080・8340・8068。