【北山エリア整備構想を考える】閑静な文教地区「賑わい」施設で変質
京都府は京都市左京区の府立植物園や旧総合資料館跡地、府立大学などの文教施設が立地する一帯を「北山エリア」(38㌶)と位置づけ、民間企業の提案に基づいて、「賑わい・交流施設の整備」を計画しています。シアターコンプレックスやアリーナ、宿泊・飲食施設を誘致・建設し、国内外の人を呼び込む狙いです。住民からは「閑静な地域を開発しないでほしい」と声が上がり、専門家からは「自治体の所有地を民間企業のもうけのために活用する計画。失敗すれば府民にツケが回されることになる」と批判の声が上がっています。
民間企業が提案…複合劇場、アリーナ、ホテル等誘致
孫を連れて植物園をよく散歩するという、左京区葵学区在住の鯵坂佳代子さん(66)は、「植物園やこの周辺の自然は、子どもたちにとって素晴らしい教育環境です。企業のために開発するのではなく、このままの自然を残してほしい」と語ります。
これは、「北山エリア整備基本計画」と題したもので、府が「あずさ監査法人」(本社・東京都)に策定を委託。同計画では、植物園について、エリア内での回遊性を高めるためのハード・ソフト両面での垣根をなくした連携をうたい、ビジターセンター、カフェ、レストラン、ミュージアムショップなどの整備を提唱。「民間のアイデアやノウハウの活用」をし、柔軟で弾力的な企画・管理運営の導入を検討するなどとしています。
府立大学では、国際試合の開催も可能なアリーナ施設を整備し、府民の一般利用や文化イベントにも活用するとしています。
そして旧総合資料館跡地では、劇場や展示場などを備えたシアターコンプレックスを整備するとともに、「コンベンション、宿泊、飲食施設などの集積や魅力的なイベントの開催などが可能な賑わい・交流機能の整備」を行うとしています。
そして施設の整備・運営に行政単独ではなく、「PPP(Public Private Partnership:官民連携)など民間のアイデアやノウハウを活用する」とし、民間企業が企画・運営し、営利活動を行うことが打ち出されています。
住民に知らせず府民の財産開発
この府の計画について考えようと、京都府職員労働組合連合(府職労連)や住民らが11月に京都市内で懇談会を開催。民間企業による「北山エリア」一帯の開発計画が浮上していることに対し、参加した住民からは「自然豊かで、閑静な住宅街に1万人のアリーナやホテルはいらない」「住民に知らせず、民間企業がもうけるために植物園を開発するようなことはやめてほしい」「自然豊かな府民の財産を壊さないで」など計画に反対する声が上がりました。
府立大学のアリーナ計画は、国際的なコンサルティング企業である「KPMG」(本部・オランダ)の会員会社「KPMGコンサルティング」(本社・東京都)が府の委託を受けて、3月に報告書「北山エリアにおけるアリーナ的要素を持った体育施設の整備可能性調査業務最終報告資料」としてまとめたもの(本紙9月27日付既報)。
府立大学では耐震基準に満たない老朽化した体育館や校舎の建て替えが遅れていることに学生から批判の声が上がっています。
体育会系の部活に入部した1回生の女子学生(18)は、耐震基準に満たない体育館で練習を続けているとし、「授業では体育館は使えないけど、部活動では使用しています。必要なのは1万人のアリーナよりも、安心して授業や練習ができる体育館を早く作ってほしい。校舎も古くて、不安です」と語ります。また学内で研究する大学院生の男性(23)は、「アリーナに150億円も使うより、校舎の建て替えや、図書館の整備など学生のために予算を使ってほしい」と声を上げます。
府立大学長「学生が普通に使える体育館に」
同大学の整備については、府議会決算特別委員会の文化スポーツ部書面審査(10月20日)で、塚本康浩府立大学長が出席し、「老朽化に関して、任期中になんとかしたいと意気込んでいる」「せめて仮設体育館をお願いしたい」「大学生が普通に使える体育館が一番基本だと思います」と施設充実を求めています。
日本共産党の光永敦彦府議は9月定例会の代表質問でこの問題を取り上げ、「北山エリア」でのシアターコンプレックス構想とともにホテルなどの計画が浮上していることを指摘し、「落ち着いた北山エリア全体をコロナ禍前の計画として利益最優先の場に大きく変えようとしている」と批判し、知事に計画の見直しを迫りました。
(「週刊京都民報」12月6日付より)