夜明け前から豆腐づくりに精を出す小畑さん

 「安心・安全な食料は日本の大地から」―新婦人京都府本部と農民組合京都府連合会(京都農民連)の産直運動で人気の〝豆腐ボックス〟。国産大豆100%、にがりを使った昔ながらの手作り豆腐は、この春、若手の製造者に引き継がれて産直会員に届けられます。

 豆腐作りの新たな担い手は、京丹波町大倉(旧和知町)で豆腐店「小畑商店」を営む小畑徹さん(39)です。豆腐が産直品目に加わった2003年から、豆腐を提供してきた櫻井勇さん(79)=京都市伏見区=が昨年末に廃業。「生産者と消費者の食の運動に、力になれるのであれば協力したい」と、小畑さんが引き受けました。

励ましの言葉を送る櫻井さん

 産直豆腐の条件は、農民連の大豆トラスト運動()で生産した国産大豆と凝固剤に「にがり」を使い、消泡剤は不使用。小畑さんは、凝固剤に澄まし粉(硫酸カルシウム)を使用しており、天然にがり(塩化マグネシウム)を扱うのは初めてで、豆腐の味や固まり具合を左右する微妙な分量の配合調整に苦戦しました。「技術的な問題は、やれば何とかなる」と持ち前のチャレンジ精神を発揮し、2カ月余りを要して試作にこぎつけました。

 ただし、消泡剤については、機械の性能上不使用では対応できず、食品衛生法上の表示義務はないものの、原材料として表記することにしました。

 小畑さんは、4歳の娘のパパ。当地の湧水を利用し、62年前に、祖父が創業した小畑商店の3代目です。先代の父親が急逝(13年)し、豆腐作りの引き継ぎもないまま手探りで技術を習得した、いきさつがあります。

 起床は午前1時半。「その日作ったものを店に並べてもらう」とのこだわりを持ち、製造作業を一人でこなし、午前中に配達を済ませるスタイルで、同業者からも、「昔の豆腐屋みたい。珍しい」と評されます。地元の丹波黒豆でつくる「丹波黒豆とうふ」も好評です。

 小畑さんに協力を依頼した、京都産直センター専務の八田聡さんは、農民連の大豆を使用する第一条件で、豆の持ち込みを敬遠する業者が多かったと話し、「小畑さんに引き受けてもらい、ほっとした」と振り返ります。

 小畑さんと地域で付き合いのある、生産者の越川尚男さん(産直センター元代表)は、地域で生産・加工し、消費者に届けるという循環の流れを継承できたことを歓迎し、「受けてもらった意義は大きい。地域の活性化につなげたい」と目を細めます。

 豆腐製造業者の選定に難航した背景には、業者数の激減も一因します。全国ではピーク時の約5万1500社が、6143社(18年度)に。京都府豆腐油揚商工組合によると組合員数は55(21年3月)です。

包装され届いた小畑さんの豆腐を手にする仁賀さん
作り手の顔が見える安心感

 野菜、米、魚、豚肉、牛乳、納豆、豆腐と広がった京都の産直運動は今年31年。新婦人府本部産直部長の仁賀里美さんは、「米でも豆腐でも作り手の顔が見える関係に、安心感があります。若手の小畑さんに会員からも応援と期待の声が届いています」と話しています。

 前任の櫻井さんも産直の豆腐を通して、厳しい意見に鍛えられ、おいしいとの声に励まされたと言い、「季節の変わり目は、原材料の微妙な配合調整に苦労した。小畑さんは、若くて熱心。一生懸命にやってくれる」とエールを送ります。

 小畑さんは、「まだまだ試行錯誤中です。苦労を惜しまず、良いと言われるものを提供していきたい」と意気盛んです。

 *農民連の大豆トラスト運動 生産者と消費者が手を結び、遺伝子組み換え食品を拒否し、国産大豆の自給率を高めようと1999年から広がった取り組み。消費者が一定規模の畑の権利を買い取り、収穫した大豆、加工品を受け取ります。大豆の自給率は6%(19年)。

産直「豆腐ボックス」 富山農民連の大豆(エンレイ)を使用。絹ごし豆腐(1丁、約350㌘)、木綿豆腐(同)、油あげ(1枚)のセットで650円。申し込み・問い合わせ=農民連京都産直センター☎0771・26・2244。産直はぐの会☎075・352・3410。