幸徳秋水や堺利彦ら初期社会主義者を財政的に援助した京丹波町出身の名望家、岩崎革也(1869~1943)の社会主義者との書簡などの調査を進めてきた、南丹市立文化博物館と退職教員でつくる「京都丹波岩崎革也研究会」はこのほど、取り組みの意義などについて振り返る冊子「岩崎革也宛書簡(解説編)」を発行しました。

 冊子は第5弾で、昨年発行の第4弾までに旧岩崎邸に残されていた書簡約390通の活字化を終えています。

 同館の犬持雅哉学芸員は冊子で、書簡の整理と調査について報告。取り組みを振り返り、「地元の方と連携して研究し、成果を冊子として公表し、住民に知ってもらうという地域の博物館のあり方を示す取り組みだった」と語ります。

 同会の原田久さんは、「文化財史資料保存継承」をテーマに記述。「全国で空き家となった旧家の取り壊しで歴史的資料が失われる事態が広がっているであろうもと、住民有志や地域の博物館などの連携で守られるという素晴らしい事例となった」と振り返ります。

 同会会長の田中仁さんは、「岩崎革也と地域社会」をテーマに解説。テーマ選定理由について、「全ての名望家に共通する要素ではない、地域貢献の側面をまとめておきたかった」と話します。また、国家社会主義者、北一輝からの書簡の解説も行い、「北の動向があまり知られていない時期のものであり、貴重な研究資料だ」と指摘します。

 同会の奥村正男さんは、革也と堺利彦の関係について解説。書簡の3分の1は、堺と妻、為子からのものが占めています。

 堺は、革也が資金援助し、「大逆事件」の犠牲者遺族慰問を行い、旅先から書簡で様子を伝えています「『大逆事件』で国賊扱いの遺族は慰問が大きな支えになったことだろう。革也は、平民新聞に『社会主義は正義人道のため』と広告を出したが、堺との共通の思いではないか」と語ります。

 須知高校(京丹波町)教員時代から革也の研究に取り組んできた同会の芦田丈司さんは、「社会主義者たちの資金要請と岩崎革也の諾否」について解説しています。

 A4判、119㌻。500円(税込、郵送代別)。問い合わせ☏0771・68・0081(同館)。