新井康友さん

 2024年からの介護保険制度改定に向け、厚生労働省が提示している論点の問題点について、佛教大学社会福祉学部の新井康友准教授に聞きました。

 2000年から始まった介護保険制度は3年ごとに見直しが行われてきましたが、今回は国民負担増が前面に出た「史上最悪」の改定と批判されています。

 厚生労働省は介護サービスの利用料負担について、現在2割負担(15年8月から年間所得が280万円以上、夫婦世帯で346万円)の人と、3割負担(18年8月から340万円以上、夫婦世帯で463万円)の対象拡大を検討しています。また、厚生労働省が15年から提案している原則1割を2割に倍化する見直し案も狙われています。

 このほかケアプランの有料化、介護老人保健施設などの多床室の室料を全額自己負担とすることや、要介護1、2の訪問介護、通所介護を介護保険から外して、自治体が運営する介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)へ移行させることなどが論点に上がってきています。

従来通り利用は半数以下に

 日本デイサービス協会が今年5月末から6月にかけて行った「財務省からの自己負担原則2割導入提言における利用者意向調査結果」では、「今と変わりなく利用する」は46・6%。「利用回数を減らす」17・8%、「利用時間を短くする」5・6%、「利用を中止する」3・9%、「加算サービスを止める・減らす(個別機能訓練・入浴・口腔改善等)」となっています。

 従来通り利用する人は約47%で、利用者の半数以上が利用について見直さざるを得ないということです。デイサービスなどの通所支援が減れば、身体機能が低下したり、家族への負担が増え、介護離職や介護難民が増える可能性があります。「地域で安心して暮らせる社会」を目指して始まった介護保険制度の根幹が問われます。

年金減、医療費増に物価高騰も

 さらに65歳以上の介護保険料を高所得者について引き上げる方向も示しています。65歳以上の介護保険料は市区町村ごとに異なり、所得に応じて9段階に分けています。この区分を増やし、最も所得が多い区分の負担を増やすという内容です。

 65歳以上の介護保険料(全国平均)は、制度開始の00年は2911円でしたが、21年改定では6014円と倍化しています。

 6月からの年金の減額、10月からの75歳以上の医療費2倍化の影響に加え、物価高が生活を直撃しています。負担増の先にあるのは貧困です。

 私の研究テーマに「高齢者の孤立死の実態と予防活動」があります。大阪府内では2020年に8件の同居孤立死が確認されました。主たる介護者の夫(86)が病死し、認知症の妻(86)は熱中症で死亡、70代の夫婦で夫が病死し、要介護状態の妻が餓死したケースもありました。

 また、同居する親族の遺体を自宅に放置した事件は昨年、宮城県で8件報道されています。「葬式をするお金がなかった」(73歳、男性)などが理由ですが、もっと生活保護制度が身近であればと悔やまれます。

高齢で「貧困化」長生き喜べない

 総務省の「2019年全国家計構造調査」で、相対的貧困率を年齢階級別にみると、最も高いのが75歳から84歳で18・3%、次が85歳以上で16・8%です。日本は老いると貧困化し、長生きを喜べない国となっています。

 一方、今年度の防衛費は6兆1744億円です。65歳以上の介護保険料は2・8兆円です。全国の介護職員210万人の待遇改善は待ったなしです。介護職員の給与は、全産業の平均から8万円以上低いのが現実です。月8万円の賃上げは2兆円でできます。

 介護保険制度改定は来年の通常国会に向け、12月までに答申をまとめます。法案成立前の今、声をあげ、運動を広げる時です。

 あらい・やすとも 特別養護老人ホームで介護職員・生活相談員、訪問介護事業所でホームヘルパーとして勤務。羽衣学園短期大学、羽衣国際大学、中部学院大学を経て、2017年4月から佛教大学社会福祉学部准教授。