パネルディスカッションに参加した(右から)宮良、桃原、生田、長岡の各氏

 京都工芸繊維大学(京都市左京区)は3月1日、同大学が所蔵する繊維関係資料類のアーカイブ作成に向けたスタートイベントとしてシンポジウム「久米島紬(つむぎ)と蚕業―無形文化財の保存・活用と展望」を学内で開催し、約100人が参加しました。

 同大学は、1899(明治32)年に設立された京都蚕業講習所が前身の一つ。同講習所は、明治政府が産業政策の柱の一つとして位置付けた生糸生産の拡大や品質向上、伝統産業の発展のため、西日本の研究拠点施設として設けられました。病気の解明やコントロール、蚕の早期育成、国内の蚕種の統一などに向けて研究を進め、日本の繊維産業の基盤を支えました。

 シンポジウムでは、同大学美術工芸資料館の並木誠士館長が開会のあいさつをし、繊維アーカイブ作成プロジェクトや来年開催予定の繊維関連の展示について説明しました。

開会あいさつをする並木館長

 第1部では、重要文化財「久米島紬」の保持団体「久米島紬保持団体」の桃原●子(とうばるていこ、●=のぎへんに貞)代表や久米島博物館主任学芸員の宮良(みやら)みゆき氏が、琉球王朝の時代からの伝統を引き継ぐ久米島紬の歴史や、保存に向けての取り組み、現状と保存に向けての問題点などについて報告。久米島紬の特徴として、糸から染織まですべて天然素材で行っていることや、「ゆいまーる」と呼ばれる相互扶助によって継承されていることなどを指摘しました。

 第2部では、文化庁文化財調査官の生田ゆき氏が無形文化財の保存や伝承の現状を報告。同学応用生物学系准教授の長岡純治氏が、京都蚕業講習所から京都工芸繊維大学までの歴史をひもとくとともに、近代蚕業に果たした役割などについて報告しました。

 第3部では、報告者4氏によるディスカッションが行われ、久米島紬が重要文化財に指定された後、同保持団体が琉球伝来の蚕の品種「琉球多蚕繭(りゅうきゅうたさんけん)」によって養蚕を復活させたドラマや、蚕の歴史や繭の色の違いなどについての解説が行われました。