(4)派遣村からはじまった2009年(講演大要)NPO法人「もやい」事務局長湯浅誠氏
湯浅誠氏の講演(4)
08年の12月に離職票を出された人は15万人いるんですけれど、そのうちの半数は自己都合なんです。普通に考えると、これから雇用不安が襲ってきて1回辞めたら再就職は難しいと分かっている時に、そんなに自己都合で辞めるかといったら辞めないですよね。その中には、自己都合でない自己都合がだいぶん混じっていることになります。
それから、3カ月のペナルティーでその間の生活費がない人は、仕事に就かなくてはいけませんから、どんな悪い労働条件でもいいからのむことになって、とにかく今日明日食うために仕事に就く状態になります。そうすると今度は、「働きましたね」と言われて受給資格を失う。そうやって多くの人がたどり着けなくなってきているってことです。これはある一般新聞の記者も取材をしてみて、雇用保険までたどり着けなかったのが現実だったと書いています。
それでは、雇用保険までをつなぐような制度があるかという話になるんですが、制度としてはあるんです。社会福祉協議会の緊急小口貸付というのがそれです。最大10万円まで、審査期間は最短4日間で保証人なしで貸してくれます。いい制度があるじゃないかと思うですけど、これがなかなか実際には借りられないんです。私も何回か相談を受けてて、そのご本人と一緒に社協の窓口へ行ったことがありますが、一度も借りられたことがない。東京都のある区のデータでは、1年間の相談件数789件のうち、借りられたのは10件いかないんです。借りられるのは1%、99%は要件に合わないと帰されている。そうなると結局そこからも、もれてしまうことになって、生活保護までいかないと、どうにもいかないようになっています。こういう現実は、制度だけみていると分かりませんね。つなぎ融資という制度も雇用保険という制度もあるし、なんかきっと本人に問題があるんだろうという話になるので、自己責任論に流れやすいんです。
政治家の人とかは上のほうから見ています。1月5日に総務省政務官の坂本さんが、「派遣村」にふれて、「まじめに働く気あるのか」と言いました。ああいう人は、上のほうから見ていて、いわば航空写真を見ているようなわけですね。航空写真で見るとちゃんと道路は敷いてあるように見えて、「道は敷いてあるじゃないか、なんで歩かないんだ。歩く気がないんだろう」という話になるんです。けれど、実際に歩いてみると、あらあらデコボコだ、穴だらけだ、これは歩けたもんじゃないな、ということが分かるわけです。自分が航空写真しか見ていないという自覚をもっていてくれれば、実際はどうなのか話を聞こうという気になるんですが。知らないことは別に悪いことではないと思うんですが、知らないという自覚がないとそこで止まってしまうんです。そういう意味で現場の実態をちゃんと伝えることはとても大事です。
そういう制度にも、もれてしまう。生活保護法は、良い法律だと思います。基本的には、日本は生活保護という法律があって良かったね、という話に本来なるべき制度だと思うんですけど、そう簡単には受けられるものではありません。ですから、なかなか受けさせない、受けたくないということでここからも多くの人がはじかれていきます。(つづく)