世界に誇れる建築 安易な改変はダメ

京都大学名誉教授(建築論・建築設計) 前田忠直さん

 京都会館の建物は、3つのホール(第1ホール、第2ホール、会議場)とそのエントランスを統合するピロティ、中庭から成ります。中庭は三方をひさしで包囲され、東山の濃い緑と空に向けて開かれ、明るい空間を具体化しているといえます。コンクリートのひさしで切り取られた東山の姿は、時を超え、常に新鮮な感動を見る者に与え続けているのではないでしょうか。
 京都会館は、我が国のモダニズム建築のリーダー、故前川國男の最高傑作の一つです。機能優先の、安易な改変をすべきではありません。市の建て替え案の不可解な姿を見て驚いています。しなやかに空を限るひさしが、重々しくそそりたつ“フライタワー”に耐えきれず、泣いているかに見えます。
 同会館は、建築と都市、外部と内部、西洋と日本、近代と伝統、構造と空間、これらの多層な両義的意味が織り込まれた世界に誇れる優れた建築作品です。
 市は、一部企業の設計者の奇妙な案を採用してはいけません。広く都市景観および建築意匠の専門家、建築と都市を愛する市民の声を聴くべきです。
 前川の初期作品が多数建設された弘前市には、「前川國男の建築を守る会」というグループがあり、前川作品は大切に守られています。文化都市・歴史都市といわれる京都市の真価が問われているのではないでしょうか。(「週刊しんぶん京都民報」2011年6月12日付