京都市職員労働組合(池田豊委員長)は28日、京都市議会2月定例会に関連条例案が提案されている京都市の新しい景観政策について、条例制定による速やかな高さ規制強化や住み続けられる京都のまちづくりをめざした政策探求などの必要性を訴える見解を発表しました。
 見解では、80年代以降、のっぽビル反対運動から京都駅ビル建て替え問題まで、さまざまなまちづくり運動を通じて景観の重要性への認識が深まってきたとして、今回の景観政策について、「市民や運動団体が様々な困難に立ち向かい訴えてきた内容と合致する。基本的に賛同できる内容」と表明。一部業者団体が意見広告で「都心は現行のまま」と主張していることに対しては、「重要なのは高さ規制強化」と反論しています。
 また、市職労の市政評価アンケートで、「歴史的なものを保存する静かな環境をもつまち」が常に50%超の支持を得ていることなどから、「景観政策の条例化でまちなみ破壊をくい止めることは多くの市民の願い」と指摘しています。
全文は以下の通りです。


 京都市の新しい景観政策について
 関連条約の成立、高さ規制の速やかな決定と持続可能な社会にふさわしい京都のまちづくりをめざした政策・施策の探求と実現を
 2007年2月27日京都市職員労働組合中央執行委員会
 1 今、ようやく京都市の景観行政が大転換のときを迎えようとしている。
 新しい景観政策の主な内容は、①市街化区域全域での高さ規制強化見直し、②高さの最高限度を超えることを認める許可制度の導入、③美観地区等の拡大、デザイン基準の見直し、④風致地区の拡大、デザイン基準の見直し、⑤屋外広告物等の規制の強化見直し、⑥新しい眺望景観制度の創設である。
 2006年3月の「時を超え光が輝く京都の景観づくり審議会」(以下、「景観づくり審議会」)の「中間取りまとめ」を受け、同年4月19日に「新たな景観政策の展開について」が公表された。さらに11月には「景観づくり審議会」の「最終答申」が行われ、同月24日に「新たな景観政策の素案」(以下「素案」)が公表され、約1カ月のパブリックコメント募集期間中に576通の意見書、延べ1410件の意見が寄せられている。
 そして、2007年1月30日に「素案」に対する市民意見等を踏まえた京都市の考え方及び対応方針が公表され、2月20日から始まった2月市議会に関連条例案が提案され審議されている。
 2 1980年代以降、京都市内において、のっぽビル反対運動、開発反対運動、マンション建設反対運動、まちづくり憲章制定の運動が繰り広げられてきた。個別には、モヒカン山と呼ばれた一条山の開発、西武宝ヶ池プリンスホテル建設、京都ホテル(現・京都ホテルオークラ)建て替え、京都駅ビル建て替え、いわゆるポンデザール橋建設反対運動などなど記憶に新しいところである。 これらのまちづくり運動を通じて京都市域の景観で重要なものとして認識が深まってきたものは、大景観、山並みへの眺望、都心居住地の継続性、京都市域全体の文化的な意味を守ることなどであった。そして、市民のまちづくり運動は、建築物の高さをより規制するその目安を示し、美観地区・風致地区の拡大、眺望を確保する立体的な規制の制定を訴えてきた。京都市職員労働組合も市民のまちづくり運動と連帯して多種多様な取り組みに積極的に参加してきた。 このような経過からも、今回の京都市の景観政策は市民や運動団体が様々な困難に立ち向かい訴えてきた内容と合致する方向の提案であり、基本的に賛同できる内容である。同時に、京都ホテルなどに適用してきた総合設計制度や京都駅ビルに適用した特定街区の活用についての総括は無く、また高さの例外規定を提案しているなど不備な点を残している。
 3 一方で、この「素案」に対して見直しを含めた意見が出されてきた。屋外広告物関係の業者団体が意見書を提出したり、新聞に「京都の景観を考える会」、「新景観政策を市民と宅建業者有志が共に考える会」、「狭小住宅の建替ができることを訴える会」の意見広告が掲載された。また「京都の景観を考える会」ではホームページも開設している。その他にもインターネット等によって京都市の新しい景観政策に対して意見が表明されている。
 その中でも、「素案」に対する市民意見等を踏まえた京都市の考え方及び対応方針が明らかにされた後の2月20日の新聞に掲載された「新景観政策を市民と宅建業者有志が共に考える会」の意見広告では、「高さ規制問題あり」「デザイン基準問題あり」と引き続き主張している。そして「このままの施行は大変」であり、例として「全市の規制強化ではなく、『山並背景』や『歴史遺産』等の周辺区域に限定し、都心は現行のまま、デザインで景観を守る。」ことを提案している。
 今回の京都市の提案が不備な点を持ちながらも極めて重要な意味を持つのは、市内中心部はもちろん市内全域を対象に高さ規制のあり方を検討した上でその強化を打ち出しているところにある。まちなみが新しい高さ規制にそろってくるのは50年度、100年後になるかもしれないが、将来の京都の景観をそのようなものにしようという理念が具体化されているのであり「都心は現行のまま」という意見には賛同できない。
 
 4 新しい景観政策はもっと早く提起し、実現すべきであった。
 「住環境を守る・京のまちづくり連絡会」が7年間にわたって行ってきた「田の字・御所南地域」の共同住宅調査の結果でも、桝本市長の就任(1996年)まではこれらの地域で11階を超える共同住宅はなく、12階以上が建設されるのは2000年からで2006年11月には建築中・建築予定を含めて46棟、14階以上の共同住宅も31棟に及んでいることが明らかにされている。
 1992年4月に「京都市土地利用及び景観対策についてのまちづくり審議会」が、「田の字・御所南地域」の容積率400%地域について「職住共存地域としての環境整備を図るため…現行の高さ・容積率を一旦引き下げ」ることを提案していた。ところが、「一律に基準容積率や高さを下げることは住民合意の面で極めて困難」(1998年4月「職住共存地区ガイドライン」)としてこれを見送ったため、高層巨大マンションラッシュとなったのである。都心部での高層化を容認してきた桝本市長の責任は重大と言わなければならない。
 今、この状況を放置するのかそれとも転換するのかが新しい景観政策にかかっている。「中間取りまとめ」が発表されて以降、かけこみ建設ともいえる状況が続いており、現在提案されている内容を条例化、都市計画決定することで、これ以上のまちなみ破壊をくい止めることが切実に求められている。
 そのことは、多くの市民の願いである。京都新聞のアンケート調査で、規制強化賛成が83%、自らの居住地の規制を受け入れる人が72%という結果からも明らかである。私たちが長年取り組んできた市政評価アンケートでも、今後の京都のまちづくりの方向として「市内に超高層ビル・高速道路が多いまち」はわずか1%台で「歴史的なものを保存する静かな環境をもつまち」が常に50%(2006年調査では62%)を超えて支持されてきている。
 5 マンション居住者を含む多くの市民からの意見、学識経験者をはじめ専門家からも意見が出されている。
 高さ規制が強化されることによって、現在住んでいるマンションがこれまでと同じ規模のマンションに建て替えることが不可能になり今より小さなマンションしか建てられなくなるという不安、45㍍から31㍍に規制されたもとでオフィス街から企業が流出していくのではないかという意見、一律的な和風デザイン等の基準でよいのかという意見などなどである。
 これらの意見の中で、景観政策の範疇にとどまらない重要なことが多々指摘されている。それは、政策案策定過程に市民がどのような仕組みのもとで関われるのか。あるいはマンション建て替えを含む住宅政策や京都市全体そしてそれぞれの地域、街区のまちづくりをどのようにしていくのかという経済産業政策も含んだ広義の意味の都市計画に関わる課題である。 今回の新しい景観政策だけでは、市民の不安や意見に応えることにはなっていない。これを契機に、市民の意見が反映できる仕組みをつくり、住み続けられる持続可能な社会にふさわしい京都のまちづくりをめざして、さらに必要な政策・施策を早急に探求し実現していかなければならない。
 そのために、私たちは2月議会で関連条例が成立し高さ規制の強化が決定されることを願っている。また今日まで、きわめて異常な超過勤務などの職員の献身的な取り組みによって業務が進められてきている。異常な超過勤務の解消と景観政策の実効ある体制の確立を求めるとともに、引き続き市民のみなさんといっしょに努力し歩んでゆく決意である。