京都市東山区北部の小中学校の統廃合問題で、退職教員ら約140人が9月28日、学校統廃合計画を見直し、議論し直すことを求め「退職教員アピール」を発表しました。
 アピールを呼びかけたのは上村栄一(元田辺高校校長、東山区在住)、藤本文朗(滋賀大学名誉教授、洛東中学卒)両氏をはじめとした11人。これに京都市内の元教員130人が賛同しています。
 この小中学校統廃合問題は、京都市が2011年度に東山区の5つの小学校と2つの中学校を統合し、洛東中学校の敷地を中心にして小中一貫校を開校することを計画しているもの。
 「アピール」では、校区が広域化することの不安や大人数化による教育の低下、校舎の地下化や3つの敷地に分散することによる安全面の不安などの問題点を指摘。統廃合により、1学級あたりの子どもの数が現在約20人から、統合後は40人近くに増えることや教職員の数が30人ほど減らされることなどを批判し、「教育は100年の大計といわれるもの。子どものたちの学び場をずさんな計画でお粗末なものにしてはならない」としています。
 アピールの全文は以下の通り。


退職教職員アピール
 疑問だらけの東山区北部の「学校統廃合計画」は一且見直し、議論を
一学級あたりが40人近くになり、先生を30人ほど減らして、子どもの学ぶ権利が保障できるでしょうか
1、東山区北部で「学校統廃合計画」が進められています。
 京都市と京都市教育委員会は東山区北部の白川、新道、六原、清水、東山の小学校5校と洛東、弥栄の中学校2校を統合し、洛東中学校の敷地に小中一貫校(隣接六原小に第二教育施設)を作るという学校統廃合計画を進めています。
 内容の概要を示すと、児童生徒の人数は八百人以上となり、洛東中学校跡地に洛東中の校舎を解体し、新たに地上三階、地下二階の校舎が造られ、さらに廃校となる六原小学校も敷地として特別教室等に使うといいます。
 京都市は、洛東中の用地拡張という理由で、洛東中学校跡地の東側にある藤平陶芸の跡地(約二百坪)を新たに購入しました。したがって、小中一貫校の敷地は、元洛東中学校、六原小学校、藤平陶芸の跡地と三つに分散した敷地となります。
 洛東中はすでに旧貞教小学校に移転し、洛東中の解体工事は終了し、新校舎建設の竣工式が終わっています。
 私たちはこの「学校統廃合計画」を検討しましたが、以下にのべるように、調べれば、調べるほど、この「計画」は疑問だらけなのです。
2、疑問だらけの「学校統廃合計画」
 第1に、校舎の地下2階までの使用と、六原校の使用についてであります。800名以上もの児童・生徒が使用するには地上だけの校舎だけでは間に合わず、地下1階に厨房・ランチルーム・音楽室・調理窒、地下2階に体育館・武道場が造られるといいます。小中学校で子どもの活動に地下二階まで使うとは、異例であります。それでも、必要な施設をつくることができないため、六原小を離れた校舎として使用し、プール、体育館、グラウンド等が造られるといいます。地下では災害の場合の避難が困難になるし、道路を通って離れた校舎に行き来することになれば、スムーズな教育活動に支障をきたし、陸橋建設等の計画もないとなれば、安全にも課題が残ります。これらの心配ごとを解決する計画も提示せず、多くの子どもたちを一校に押し込める「統廃合」をすべきなのでしょうか。
 第二に、通学路の遠距離化の問題です。今回の七校の「統廃合」によって、校区の南北はおよそ三条通りから七条通りまでの広城となります。この地域は、道路が狭いわりに車が頻繁に通る道路が多く、通学途上の子どもの安全上の心配が増します。教育委員会は無料の通学バス(白川校区の児童・生徒のみ)を出すといっていますが、それでこれらの問題が解決できるとは思えません。また、校区がこれほどまでに広城化すれば、父母住民を学校から遠ざけてしまう結果となり、父母住民との信頼と共同が失われないでしょうか。
 第3に、「統廃合」によって、1学級あたりの子どもの数が、現在の20名ほどから、40名近くに増えることであります。他方、教職員の数は30名ほど減らされるとみられます。いずれも、一人ひとりの子どもに行き届いた教育を進める上でマイナスとなることは、明らかであります。これで、父母・住民の願いがかなえられるのでしょうか。
 第4に、子どもの数が少ない小規模校では、よい教育はできないのでしょうか。そんなことはありません。東山区のどの学校でも、「小規模校だからこそできる行き届いた教育」が進められてきました。例えば、学年の枠を超えた異年齢集団の活動や、あるいは全校集会の活動などが、活発に行われてきました。近隣の学校どうしで交流もかねた文化鑑賞行事をしたところもありました。これらは小回りの利く小規模校だからこそできたことであります。また、なによりも、全校100名ほどの子どもの数であれば、どの教職員もすべての子どもの顔と名前を覚えて接することができました。全校児童・生徒が800名以上となれば、小規模校のよさはどうなるのでしょうか。
3、理想とは程遠い「学校統廃合計圃」
 京都市教育委員会は、「全国をリードする最先端の教育システム」を導入し、本格的施設一体型小中一貫校づくりを進めれば、いじめや不登校が減少するなど、理想的な学校ができるかのように言っています。しかし、左にみたように、この計画の実際の中味は、7つある小中学校の6つを廃校にして1つだけにするという「小中学校統廃合」計画でしかありません。
 「施設一体型の小中一貫」といえば聞こえはいいのですが、すでに述べたように、校舎は地下2階にまで及ぶという小中学校としては、異例の構造をもち、また、ずっと離れた場所にある校舎への行き来をしなければならないというように、多数の子どもたちを狭い敷地に押し込むためのさまざまな「無理」をともなった「施設一体型の小中一貫」でしかありません。
 洛東中学校跡地の校舎が建設された後、六原小学校跡地の校舎建設(完成予定が明らかにされていない)をするため、開校時はプール(洛東中学校跡地ではなく六原小学校に建設予定)などがありません。また、小中一貫校の敷地の一部(藤平陶芸の跡地)の施設計画が示されていません。全体計画を明らかにせず、必要な施設がないまま開校することは、絶対にしてはならない「計画」です。
 学力格差の問題、いじめ・不登校の問題等々、今学校教育が解決すべき課題は決して少なくありません。これらの課題を解決するには、学校教職員の創意工夫と地城父母の声が生かされる学校作りがされるべきです。
 該当する七つの小中学校はそれぞれ地元住民によって守り育てられてきた伝統ある学校であり、それらの学校は子どもが無理なく通えるところにあります。これらの地域は、東山と鴨川の間に位置しており、有名寺院、博物館、祇園、老舗、商店街等があり、町自体が多様に構成されており、学校を中心とした徒歩圏内にある校区が学校外の学校の役割を果たしています。
 それゆえ安全でもあります。これらの学校が廃校となれば、それらは無になってしまいます。
 それゆえ、現在、新校舎建設計画が進行している段階ですが、私たちは、子どもと教育にたずさわったものとして、今回の統廃合計画に危倶の念を強く抱くものです。
4、今回の「学校統廃合計画」は一旦見直し、議論を
 開校時に必要な施設がなく、六原小の校舎建設の完成予定が明示されていないなど、とても「計画」といえるものではありません。この「計画」は、「人件費削減」「施般・設備の削減」等の一環であり、全市に「大規模な施設一体型の小中一貫の学校統廃合」を推し進める突破口にすることだと思われます。
 今回の「統廃合計画」は東山区北部だけでなく、全市的にも教育やまちづくりにも大きな影響を与えるものと思われます。
 それゆえ、新校舎建設の竣工式が終わっていますが、私たちは、今こそ声を上げなくてはいけないと考えました。
 教育は百年の大計といいます。未来を担う子どもたちの学びの場を、ずさんな計画でお粗末なものにしてしまってはいけません。
 このようなことから、今回の統廃合計画を推し進めることは、一旦見直して、地域住民、親や教師、教育研究者などがこぞって知恵を出し合い議輪し、京都市民の総意でよりよい教育環境・地城づくりを進めていくことが今大切だと思います。
 そして、このアピールが議論のきっかけになればと願っています。