京都市長の諮問機関「市財政改革有識者会議」が発表(4日)した、市民の負担増や市職員削減などを盛り込んだ「市の財政改革に関する提言」について日本共産党市会議団(19人、山中渡団長)は8日、以下の「見解と提案」を発表しました。


[見解]京都市財政改革有識者会議提言の発表にあたって─京都市の財政再建にむけた日本共産党の見解と提案
はじめに 
 10月4日、門川京都市長の諮問を受けた京都市財政改革有識者会議(昨年12月に設置:以下、有識者会議)が、提言を発表しました。有識者会議の第一回会議で由木副市長は、「小泉内閣の経済財政諮問会議の財政議論のようにしてほしい」と述べましたが、これは、国民の貧困と格差を拡大させ、経済も財政も〝共倒れ〟させた小泉改革をお手本にするものにほかなりません。
 提言は、10年間の財源不足をシミュレーションし、「このまま何もしなければ夕張のようになる」と市民を脅し、負担増と市民サービス切り捨てを提案しています。これは、京都市の公的責任を投げ捨てて、市民生活、暮らし、中小企業に重大な打撃を与えることになり、結果として京都市財政はいっそう厳しい状況にならざるをえません。
 市財政再建は市民の暮らしと人間らしく生きる権利、京都市の未来がかかった重大問題です。日本共産党は、京都市がつくった枠組みによる有識者会議の提言を結論とするのではなく、京都市財政の健全化に向けて、市民参加の議論と検討をよびかけるものです。

  1. 提言がめざすものは…公的責任の放棄と市民サービスの切り捨て

     有識者会議は財政運営の目標として、4つの分野での改革を提言しています。その内容をよく見るとさまざまな問題点が浮き彫りになってきます。
    (1)社会福祉について
     提言は、敬老乗車証交付事業対象者の抑制と自己負担額の引き上げ、母子家庭等医療費助成制度の所得制限の見直し、学童う歯対策事業の打ち切りを求めています。また、保護率の高さを理由に生活保護の抑制を、人件費の高さを理由にケースワーカーの削減を求めています。
     提言は、「全国水準に上乗せしたり、京都市独自で実施している福祉事業のあり方を見直す」としています。しかし、独自の保育園プール制が、京都市の高い保育水準と保育士の処遇を確保してきた役割を、横並び指向の他都市比較で否定することは問題です。また、ケースワーカーの削減は業務荷重につながり、問題の発見が遅れ、深刻化しかねません。このことは、「京都に住んでよかった」「福祉先進都市」などを掲げた市長公約にも反するものです。
     さらに「新たな社会福祉の実施に必要な財源は、既存施策の見直しにより確保する」としています。まさに市民の福祉充実要求に対して既存の施策と競合させ、市民の中に分断をもちこむものです。
    (2)歳入の確保について
     提言は、市税の軽減措置の見直しを掲げています。この中には、国が制度を縮小し、他都市が廃止するなかで、京都市が唯一実施している年金額255万円以下の単身高齢者の市税軽減措置も含まれています。軽減措置が廃止されれば対象は約20万人、影響額は14億円に及び、同時に非課税世帯が課税世帯になれば、公共料金などの負担増にも連動します。保育料や国保料、65歳以上の医療費窓口負担助成制度などに影響し、低所得者や高齢者に雪だるま式の耐え難い負担増を強いることになります。
     さらに、他都市平均より低い施設利用料収入の見直し、公営企業会計への繰出し金の縮小などを掲げていますが、利用料や市バス・地下鉄運賃の値上げに連動するものです。
     そして、市税収入が増収になった場合には、「増収相当分を更なる財源確保につながるものへ再投資する」よう求めていますが、岡崎地域での総合特区制度の活用提案のように、規制緩和や破綻ずみの企業の呼び込み型開発につながることが懸念されます。
    (3)人件費について
     計画的な人員削減をすすめ、市民1人あたりの人件費を他都市の平均以下にし、人件費の総額抑制にとりくむことを提言しています。しかし、有識者会議も認めているように、市職員1人あたりのラスパイレス指数や平均給与月額は他都市並みであり、21年7月から実施している給与カットにより、実際には他都市を下回っています。それに関しては、市人事委員会の勧告でも「職員の士気や組織活力に及ぼす影響を考え合わせ、早期に解消されることを望む」と指摘せざるえない状況です。
     人件費総額を抑制するとして、教育部門や消防部門などの計画的な削減に言及し、「公務と民間の役割分担と業務の民間委託化、複数の区役所業務の共同化」などを提案しています。しかし、教育や消防などは、将来の人材育成や安全の町づくりにとって、欠くことのできない部門であり、削減は問題です。すでに民間委託が始まっている市バス運転手やごみ収集業務は、低賃金と労働強化など新しい問題を生んでいます。
    (4)公共投資に関して
     「公共投資の規模を抑制し、主たる財源である市債発行額を縮減する将来の公債費負担の軽減をはかる」として「今後10年間の重点や優先順位など、全市的視点で予算編成する」としています。そうであるならば、不要不急の公共投資を抑制し、事業の延伸を優先することに踏み込むべきです。
     しかし、京都市の財政シミュレーションでは、平成22年度の投資的経費を今後10年間、何の検証もないまま同額で継続することを前提としています。費用対効果や環境への影響を考えると、焼却灰溶融施設の本格稼働を中止し、残る市内高速道路3路線計画は撤回し投資を見直すべきですが、提言では具体的に触れられていません。
     有識者会議提言は、京都市が提言に基づく財政運営目標を設定し、達成のための具体的取組を定める改革実行計画を策定し、毎年の予算編成を拘束するよう求めています。従って改革実行計画のなかで施策の廃止・縮小が行われ、それは来年度予算案から具体化されることになります。市民負担増とサービス切り捨てを許さない世論と運動をよびかけるものです。
     さらに、次期の市基本計画も改革実行計画と一体のものとして策定するよう求めている点も見逃せません。基本計画は今後10年間の市政運営の基本方針です。一体のものとするのであれば、改革実行計画と結んで十分な検討と検証が必要です。

  2. 京都市は本当に財政再生団体になるのでしょうか?

     提言の前提として京都市は、31年度までの今後10年間の中長期財政シミュレーションを作成し、9年間の累計で財源不足2290億円が生じ、何の対策も講じなければ、「25年には財政健全化団体、26年度には財政再生団体に陥りかねない」と危機感を煽っています。
     京都市財政は、多額にのぼる市債残高、単年度の財源不足、地下鉄会計の赤字など、確かに改善が必要であることは事実です。しかし、あと4年で財政再生団体などの危機的な事態を迎えると評価するシミュレーションは妥当なのでしょうか。
     京都市の財政状況の評価については、さまざまな分析やシミュレーションを示して、市民的な議論をおこなうべきです。
     第一に、提言自体、「不確定要素が多い」と述べているように、京都市が作成したシミュレーションの根拠は極めて不安定なものです。歳入対策としての特別対策は今後いっさい行わないとしていますが、毎年予算編成で行っている特別対策を継続した場合はどうなるかなど多様なシミュレーションは示されていません。
     第二に、「市財政は危機的」といいながら、実際には「現在の施策・制度が継続されることを前提に」し、投資的経費は向こう十年間減額しないことにしています。しかし市長は、年間経費十六億円もかかる焼却灰溶融施設や、市内高速道路計画も継続を表明しており、これらを見直せば、財源のやりくりの余地はまだ十分にあります。
     第三に、そもそも、市債残高である借金は少ない方がいいのは当然です。新規市債発行を極力抑制しつつ、元利償還計画の見直しをおこない、当面は、提言でも求めている「市債残高を増加させない」との姿勢で臨むシミュレーションも検討すべきです。
     以上、3点に絞って問題点を指摘しましたが、京都市がつくった意図的なシミュレーションだけを根拠に「このままでは財政再生団体に(夕張のように)なる」と市民の不安を煽り、市民負担増と市民サービス切り捨てを押し付けることは問題です。

  3. 財政危機の最大の原因にメスを入れてこそ解決の方向が明確に

     提言には地方財政の困難をつくりだしたことへの国の責任と歴代の市政運営についての言及がありません。ここにこそ根本的な問題があります。
     地方財政の危機の背景には、国の責任放棄、地方自治破壊の攻撃が根本にあります。国の地方交付税が三位一体改革によって大幅に削減され(5年間で507億円の削減)、消費税増税が景気悪化をもたらし、法人税の引き下げや所得税減税の廃止などが地方財政の悪化を加速させました。
     歴代の市長とオール与党は、国の地方自治破壊と地方財政の切捨て政策と一体となって推進し、事態を深刻化させてきました。さらに、建都1200年記念事業の財源としての建設市債、本来国の責任で財政措置すべき地方財源を自治体の借金におしつけた赤字地方債の発行を繰り返し、市債残高を膨れ上がらせ、その返済が財政負担を拡大してきました。
     加えて、今年6月に閣議決定された地域主権戦略大綱は、国と地方の役割分担を強調し、社会保障などのナショナルミニマム(憲法が定める国の責任)の基準と財政負担を放棄し、自治体に基準の責任と財政負担をおしつけようとしています。
     また、「ひもつき補助金を廃止し、地方が自由に使えるように」との名目で、補助金を一括交付金化し、23年度は投資分野、24年度は社会保障・義務教育関係分野にも拡大しようとしています。
     政府による地方自治破壊がすすめられている時に、そのつけを住民に押し付け、住民の暮らしをさらに困難にすることは、地方財政をさらに深刻にする悪循環になるだけです。

  4. 京都市の財政再建の方向について日本共産党の提案

     第一に、市財政健全化の目的は、市民の幸福、暮らしの充実、京都経済の発展をつくりだすことにあり、そこにこそ自治体の責任と役割があります。暮らしをよくすることが人口増につながり、地域の商店・中小企業に活力が生まれます。市民の暮らしを応援する予算編成を行うことこそ、財政再建の大道です。
     第二に、国の責任を明確にして、地方自治の立場からの大きな運動をつくりだすことです。大阪市のように一括交付金化を求めることは、地方財源の切捨て・削減の方向であり、地方自治体の自殺行為です。京都市議会は「地域主権改革一括化法案の廃止を求める」意見書を採択(2010年5月市会)しています。これは、福祉施設などの国の最低基準堅持と財政責任を果たすことを求めたものです。京都市は、議会の決議にもとづいてきっぱり反対する意思を表明すべきです。
     第三に、高速道路、焼却灰溶融施設など、ムダ遣いをやめることです。同時に、多大な設備投資がかかる総務事務の電算化など、必要であっても急がない政策課題は優先順位を明確にすべきです。
     第四に、日本共産党はこれまでも、政務調査費領収書の全面公開や海外視察の自粛、費用弁償の50%カットなどを提案し、実行してきました。さらに費用弁償の全廃などを提案しています。議会も聖域にせず、市民参加のもとで真剣に論議をするなど、財政赤字解消に向けた努力をすすめるべきです。
     第五に、そのためにも京都市財政について、研究者も含めた本格的な全市民参加型の民主的議論・検討の場を保障することです。

 日本共産党市会議員団は、以上の提案の実現にむけて全力をあげます。