異なる事態で放射能漏れ

 今回、福島第一原発では2種類の異なる事態で放射能漏れが起こっています。ひとつは被災するまで運転中だった1~3号機です。現在海水注入を続けている原子炉です。1~3号機は、地震で制御棒が入り緊急停止しました。しかし、非常用電源も失われ電力がない中で冷却装置による注水ができず、炉心溶融の危険にさらされています。十分冷やされない下で燃料の被覆管(ジルコニウム合金)と水が反応して水素ガスが発生し、建屋の損壊(1、3号機)や格納容器(圧力抑制室)の損傷(2号機)が起こっています。
 1~3号機で想定される最悪の事態は、冷却不足からさらに燃料がどろどろに溶け出し、圧力容器の底にたまり、核分裂反応が始まる再臨界を起こすことです。再臨界になると発熱量が大きくなるので水蒸気爆発を引き起こし、圧力容器そのものが破壊されて、大量の放射能が放出されかねません。
 もうひとつは、被災時は定期検査で停止中だった4号機です。炉内の核燃料は建屋内のプール(使用済み核燃料プール)に移してありました。この燃料は使用済みといっても内部には放射性物質があり、熱を出し続けるため冷やし続けないといけません。

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 しかし、プールの水を循環させるポンプの電力が失われたため動かず、水が蒸発して水位が低下し、核燃料がむき出しの状態になりました。3号機のプールも同様の状態です。3、4号機の事態で困るのは、核燃料が圧力容器や格納容器の中にある1~3号機と違い、プールにはふたがなく、それぞれ建屋が損壊していて、発生した放射能が直接環境中に漏れ出してしまうことです。現在、放水車や消防車によって懸命の放水作業が続けられているのはこのためです。

燃料棒が崩壊熱で溶ける

 そもそも、日本の原子力発電は「軽水炉」というアメリカで開発された原子炉を使用しています。軽水炉の特徴は、地震など緊急時に運転停止した後も炉の中にある燃料棒が自身の出す熱(崩壊熱)で溶けてしまうため、強制的に冷やし続ける必要があることです。そのために非常時に冷却水を循環させる仕組みがあります。また、津波の恐れがあるにもかかわらず日本のすべての原発が海岸沿いに立地しているのはタービンを回した後の水蒸気を冷やして水に戻すために大量の水が必要だからです。しかし、今回の事故では、津波によって冷却系統を動かす電力をすべて失ってしまいました。発電所でありながら電力がない。複数系統ある冷却装置のバックアップも共通の原因ですべて使えなくなりました。

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 炉心を冷やす水が供給されない事故を「冷却材喪失事故」と呼ぶのですが、私が原子力に関わり始めた約50年前から軽水炉の課題となっていたことです。制御棒が入り、原子炉の運転停止後も冷却し続ける仕組み(ECCS=Emergency Core Cooling System、非常用炉心冷却装置)が必要だと。理念は誰でも「その通り」と理解できます。しかし、その理念で設計したものがいざという時にちゃんと働くかどうかという実証性はずっと問われてきました。
 私は「ECCSの実証性は不十分」だとして発言したり、本を出版するなど指摘してきましたが、日本政府は70年代以降、日本列島各地に原発を建設する国家的戦略を産業界とともに強力に推進してきました。こうした中で、日本の原子力開発政策を批判する私は大学生活でもいろいろな嫌がらせを受けました。
 今回、軽水炉という原子炉が開発されて以来、常に懸案だったECCSの実証性の不十分さ、潜在的な危険性が自然の猛威の前に明らかになりました。これは、原発のような大規模技術の開発に反省を迫るものです。“過去の大規模災害+α”の設計思想ではだめだということです。

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 さらに、「想定外」の自然災害による不可抗力的な事故と言われますが、「人災」の側面もあります。地震大国の日本での集中立地や津波災害などさまざまな観点から危険性は指摘されてきましたし、16年で減価償却する原子炉を40年も使い続けていたのは電力会社のコスト優先の発想が大本にあります。

原子力政策の抜本的見直しを

 福島第一原発の事態は引き続き予断を許しません。こうした下で、日本に現在ある50数基の原発について潜在的な危険性がないか総点検することが不可欠です。原発は「発電時にCO2を排出しない」として温暖化対策に有効とされていますが、燃料の製造過程など発電前後をトータルすればCO2の削減効果はありません。何より安全性を確保できない原発に電力を依存し続けることはできません。原子力政策の抜本的見直しが必要です。(「週刊しんぶん京都民報」3月27日付に掲載)