3年間不動産会社に勤めています。1日約10~12時間勤務ですが、残業代は出ません。3年分の未払い残業代を大まかに計算して出すことはできます。会社に請求すれば、私の未払い残業代は全額取り戻すことはできますか?(32歳、男性、宇治市)

過去の未払い分全額請求すべき

(25)3年分の残業代イラスト・辻井タカヒロ

 まず、就業規則などの関連規定を調べて下さい。労働基準法(以下、労基法)では休憩時間を除いて原則として1日8時間、1週40時間が法定労働時間です(32条)。1日10時間~12時間勤務であれば、明らかに法定時間を超えており、法違反の残業(法外残業)になります。ただ、例外として労基法36条では、事業場の過半数労働者代表との間に時間外労働協定(36協定)を結んで、それを労働基準監督署に届け出たときに限り、使用者(会社)は法外残業を命じても処罰されません。この協定があるか、協定範囲内の残業かどうかの確認が必要です。
 時間外手当は、「通常の労働時間または労働日の賃金の計算額」Aに割増率を掛けたものです。Aには(1)家族手当、(2)通勤手当、(3)別居手当、(4)子女教育手当、(5)住宅手当、(6)臨時に支払われた賃金、(7)賞与などは含まれません。割増率は、法外残業では25%以上、週1日の法定休日労働は35%以上です。
 これとは別に午後10時から午前5時までの深夜労働には25%以上の深夜割増賃金が必要です(労基法37条)。会社の所定労働時間を超えて法定時間(1日8時間)までの残業は「法内残業」となり、その割増賃金や割増率は、通常、就業規則などの規定によって異なります。
 労働者としては過去3年分の未払い残業代全額を請求すべきです。会社が払えば何の問題もありません。しかし、残業代の時効は2年です。会社が時効を主張すれば2年を超える過去分を支払わせるのは困難です。ただ、裁判で争えば、残業代と同額の付加金(労基法114条)を合わせて倍額を請求できますし、遅延利息の請求も可能です。
 最後に、労基法の適用を除外したり、脱法的に残業代を支払わない働かせ方が広がっています。要注意です。たとえば、(1)個人事業主扱い、(2)裁量労働・事業場外みなし労働、(3)変形労働時間、(4)名ばかり管理職、(5)(残業代わりの)手当支給などが考えられます。これらの場合、特別な対抗策が必要です。(「週刊しんぶん京都民報」2008年11月9日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。