アルバイトで、肉体労働をしています。軍手やヘルメット、安全靴などの道具の料金が給料から天引きされます。家の解体や工事現場など危険な仕事も多いので、道具は必要ですが、会社から支給してもらうことはできますか?(25歳、男性、京都市)

天引き自体に法的根拠ない

(26)道具は支給してイラスト・辻井タカヒロ

 まず、賃金からの天引きができるのは例外です。それには法令か、事業場過半数労働者代表との書面協定が必要です(労働基準法第24条)。
 しかし、ご相談の場合、天引き自体に法的根拠がないと思います。アルバイトは使用者(会社)と労働契約を結んでの就労形態です。使用者の指揮命令を受けて働き、制服・作業衣など作業遂行に必要な物や道具は使用者負担が当然です。その用品代や損料は「実費弁償」と呼ばれ、労働者負担させるべきではないとする、労働基準局長見解が示されています(1952年5月10日基収2162号)。
 これは、請負や委託形式での個人事業主が、道具や材料を準備する一方、税法上はそれを必要経費として控除できるのとは大きく違う点です。ところが、近年、アルバイトや日雇い派遣などが広がるなかで、労働・社会保障法を無視した労務管理が見られます。ご相談のように、使用者が負担すべき最低限の備品・道具や制服(洗濯代を含む)等の費用まで労働者負担とするものは、「名ばかり個人請負」扱いであり、違法な処遇です。
 労働安全衛生法は、事業者に快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じた安全・健康の確保(第3条)、危険防止措置を義務づけています(第20条以下)。これらの義務は第1次的には国に対する義務ですが、判例・学説は労働者に対する私法上の義務でもあると考えてきました。労働契約法(08年3月施行)は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(第5条)と定めました。これは強行規定ですので、仮に同意があっても作業に必要な負担を労働者にさせることは、同条所定の使用者の義務を回避するもので無効となります。
 ご相談の場合、地域労組の援助を受け、労働行政を活用すれば、今後、使用者負担とさせるだけでなく、過去の分も取戻せると思います。(「週刊しんぶん京都民報」2008年11月23日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。