飲食店で正社員で働いています。サービス残業代支払いなどを求めて労働組合をつくりました。すると会社が他の会社と合併し、その際に労働組合員のみが不採用になりました。実質の解雇だと思います。こんなことが許されるのでしょうか。(35歳男性、宇治市)

組合つぶしを狙った違法な不当労働行為

(56)合併で労組員不採用イラスト・辻井タカヒロ

 労働条件は使用者が一方的に決めるものではなく、労働者と使用者が対等に決定することが原則です。
 通常、使用者は会社などの団体組織ですので、労働者が個人で対抗することは困難です。労働者は労働条件向上のために、団結(労働組合)を結成して集団的に使用者と対抗することで、実質的対等決定が可能となります。憲法28条や労働組合法は、労働者の自主的な団結である労働組合の結成や、争議行為を含む団体行動を保障しています。
 本来は、労働組合は、労働条件向上を目的とする組織ですが、最近は、使用者が強い立場を利用して、労働基準法などに反した労働条件を強制する例が増えています。労働基準法は最低基準を定めており、違反には罰則があって労働基準監督署への申告も可能ですが、実際には、その最低基準を守らせるためにも労働組合の役割が重要です。
 とくに、飲食店などのサービス業では、法違反の労務管理が少なくありません。法違反を是正させることは、労働組合としてはきわめて正当で基本的な活動です。
 こうした労働組合の活動を妨害する使用者側の対応は、日本国憲法が保障する団結権を侵害する違法行為です。労働組合法は、これを違法な「不当労働行為」として明文で禁止しています(同法7条)。
 不当労働行為には、(1)組合活動を理由とした不利益扱い(差別待遇)、(2)団交拒否、(3)組合への支配介入などの類型があります。組合を嫌悪して会社合併を進め、新会社に組合員を採用しないことは、組合活動を理由にした不利益扱いですし、組合つぶしを狙った支配介入にもあたります。
 こうした不当労働行為に対しては、労働委員会や裁判所で救済を受けることができます。ご相談と同様に、サービス残業を問題にした労働組合を嫌って別会社を作り、組合員を解雇した「ちゃんこ若事件」で、京都府労働委員会は09年8月12日、会社の一連の対応が不当労働行為だと認め、組合員の採用を命ずる救済命令を出しています。(「週刊しんぶん京都民報」2010年2月28日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。