住宅販売の営業の仕事をしています。上司から「仕事ができない」「何してるんや」ときつく言われ、ノイローゼ気味になり、仕事へ行けなくなりました。病院に行くとメンタルの病気と診断されましたが、このまま会社を辞めるしかないのでしょうか。(29歳、男性、京都市)

休業補償受け治療に専念する権利がある

(57)心の病で仕事行けずイラスト・辻井タカヒロ

 辞める必要はまったくありません。会社の労務管理は、従業員の健康に配慮するという、使用者の義務に違反したものです。既に病気の診断が出ているということですが、会社を辞めずに休業補償を受けながら治療に専念する権利があります。
 まず、メンタルの病気について、労働基準監督署で「業務上の傷病」という認定(労災認定)を受ければ、少なくとも労災保険に基づいて「療養補償給付」(治療費全額)と、会社を休んで仕事ができない期間、「休業補償給付」等(給付基礎日額の8割)を受けて治療に専念することができます。
 次に、療養期間中は使用者(会社)は労働者を解雇することができません。労働基準法では、業務上の傷病による療養期間とその後30日間は、解雇が禁止されているからです(同法19条)。
 第3に、会社は、労働契約や労働安全衛生法に基づき、従業員の健康に配慮しながら仕事をさせる義務を負っています。最近、とくに仕事にかかわる「うつ病」の増加から、職場におけるメンタルケアの重要性が指摘され、労働安全衛生法に基づいて労働行政からの使用者(企業)に対する指導が強められています。
 労働安全衛生法では、事業者に「健康の保持増進」が義務づけられますが、そのなかに「メンタルヘルスケアの活動を含める」とされています。
 さらに、労働行政は、企業に対して、事業場における労働者の「心の健康づくり」や「心の健康増進」のための指針を示しており、たいていの企業がこの指針に沿ってメンタルヘルス対策を進めています。上司のきつい言い方は、こうしたメンタルヘルスを含めた「健康の保持増進への配慮」に欠けるものです。
 第4に、上司のきつい言葉や、会社の労務管理に健康配慮が欠けていたことが原因になって、メンタルの病気になったと言える場合には、労働者として健康に働く権利を侵害した「不法行為」として上司や会社に対して損害賠償を請求することができます。
 ただ、労災認定は簡単とは言えませんので、できれば職場のメンタルヘルスに詳しい医師、労災職業病団体などにも相談して下さい。(「週刊しんぶん京都民報」2010年3月14日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。