突然会社から「うちから子会社に移ってくれ」と言われ、仕方なく職場を変わりました。仕事が事務から営業に変わり、ノルマもきつく、もう続けられません。元の職場には戻してもらえず、退職を考えていますが、多くの人が私と同じように辞めています。退職強要ではないですか? 私はどうしたらいいでしょうか?(34歳、男性、長岡京市)

労働者の同意なしには一方的変更はできない

(66)子会社への「移籍」イラスト・辻井タカヒロ

 所属会社、担当職務、勤務地だけでなく、労働条件(賃金、労働時間、労働密度など)について、労働者の同意なしに、会社が一方的に変更することはできません。子会社に移るというのは「移籍」と呼ばれ、労働契約の一方当事者である会社が変わることですので、労働者の同意が必要です(民法六二五条)。
 また、労働者が担当する業務内容は、労働契約の重要な内容です。事務と営業はまったく違う内容の業務ですので、そうした「職務変更」には労働者の同意が必要です。また通常、労働条件としては賃金と労働時間を考えますが、労働密度(ノルマ、配置人員など)や労働環境も労働条件と考えられます。こうした労働条件も、労働契約の内容ですので、その変更には原則として労働者の同意が必要であり、会社が一方的に変更することはできません。
 ご相談の場合、会社側の対応に労働者が明確に拒否の意思を表示すれば、会社は法的に強制することはできません。しかし、実際には、労働者と使用者(会社)の間は対等な関係とは言えず、両者の間に大きな力の違いがありますので、労働者がやむなく同意させられることがほとんどです。
 労働者が現実に対抗する手がかりとしては、(1)労働基準法や最低賃金法と、(2)労働組合法があります。
 労働基準法は、労働条件の最低基準を定めているだけですが、同法違反の契約条項は無効ですし、労働基準監督署への申告や会社への罰則適用なども求めることができます。ただ、ご相談の問題(移籍、職務変更、ノルマなど)については、労働基準法は明確な基準を定めていません。
 そうすると、使用者(会社)と対抗するには、労働組合が必要です。同じような状況に置かれている仲間同士で労働組合を結成したり、地域労組など、誰でも加入できる労組が増えていますので、そうした労組に加入して、労働組合法に基づく団体交渉権を行使して、会社と集団的に対等に話合うという方法が最も現実的かつ有効だと言えます。(「週刊しんぶん京都民報」2010年7月25日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。