もうすぐ大学を卒業します。ある会社に内定が決まっていましたが、会社から「内定を取り消す」と言われてしまいました。このままでは就職できません。どうしたらいいのでしょうか?(22歳、男性、京都市)

すでに労働契約が成立 相当な理由ないと無効

(72)内定取り消しイラスト・辻井タカヒロ

 採用内定を受けた学生は、その企業に採用されると信じて、他の企業への就職活動を中止します。卒業直前に内定取消しされると、就労できないだけでなく、貴重な就職活動の機会や時間を失うなど、重大な被害を受けることになります。
 裁判では、滋賀大生に対する卒業直前の内定取消しが問題になった大日本印刷事件が先例です。最高裁は、採用内定通知を受けた学生と会社との間に、誓約書に記載された採用内定取消事由に基づく解約権を会社が留保し、卒業直後を「就労の始期」とする労働契約が成立しているとしました。
 そして、採用内定を取消せるのは、この留保された解約権の趣旨、目的に照して客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができる場合に限られるとし、会社側が主張した、内定者の「グルーミー(陰気)な印象を打消す材料が卒業までに出なかった」という理由は、合理的で相当なものではなく、内定取消しは権利濫用で無効であると判示しました(1979年7月20日)。
 内定によって学生と企業の間には既に労働契約が成立しており、合理的で相当な理由がない内定取消しは権利濫用で無効ということになります。
 つまり、内定取消しは、解雇の場合と類似した枠組みで判断されるということができます。そして、裁判などを通じて「従業員としての地位」を確認することや、損害賠償を企業に求めることができます。
 さらに、2008年以降、不況を理由にした企業側の内定取消しが相次ぎました。政府は、これを防止するために、2009年、(1)ハローワークによる内定取消し事例の一元的把握、(2)事業主がハローワークに通知すべき事項の明確化、(3)悪質な企業名を公表することなどによって、安易に採用内定取消しを行わないように企業に対する指導を徹底することになりました。
 さらに、内定取消しに遭った学生のための特別相談窓口を都道府県ごとに設置しています。このような労働行政を活用する方法もあります。(「週刊しんぶん京都民報」2010年10月31日付

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。