(85)裁量労働制での残業
時間指示があれば労基法違反となる
裁量労働制とは、業務遂行の大部分を労働者の裁量に委ねることから、一定業務について実労働時間ではなく、「みなし時間」で時間計算を行う制度です。実際の労働時間が、「みなし時間」を超えても、残業代を支払わなくても済むという点で使用者にとって好都合な制度です。労働者側の反対を押し切って時間規制の緩和を目的に導入されました。
裁量労働制には、A専門業務型と、B企画業務型の2種類があり、導入するには要件を満たす必要があります。Aは、研究開発など特定業務に限られ、労使協定で「業務遂行・時間について具体的指示をしないこと」、「みなし労働時間」、「健康確保措置」等を定めておくことが必要です(労基法38条の3)。この協定は有効期間を定め、労働基準監督署に届け出る必要があります。
Bは、企画立案などの業務を行う労働者が対象です。Aよりも濫用される危険が大きいので、労使委員会決議など要件はより厳格です(労基法38条の4)。
本来、時間管理を労働者の裁量にまかせる制度ですので、会社が「早出や残業を命じる」などの指示を出すことはできません。この制度は労働基準法の例外ですので、きわめて厳格な運用が求められています。
時間指示ができない点で、会社にも大きなリスクがあります。残業代を払わないメリットをそのままにして、残業を命じられるのでは「裁量労働制」とは言えません。早出・残業の指示は、労使協定違反=労働基準法違反となり、裁量労働制は無効となります。
また、労使協定が適正に締結されたとしても、実労働時間が「みなし時間」を恒常的かつ大幅に超える場合、制度の根拠が崩れているので法違反であると考えられます。その結果、これらの場合、本来の実労働時間に基づく賃金と時間外労働手当の支払いを会社に求めることができます。
裁量労働制の要件は複雑です。労働基準監督署に問い合わせたり、労働組合(職場になければ地域労組)に相談するのが良いと思います。(「週刊しんぶん京都民報」2011年6月5日付)