演劇に何ができるのか問いかけた創作現場

 2011年を振り返る時、「3・11」に触れずに済ますことは、どんなジャンルにおいてもできないだろう。未曾有の大震災と原発事故。演劇は今、何を語るのか、演劇は今、何ができるのか。京都のみならず、全国の演劇人が深く問いかけつつ創作の現場に立っている。

3つのフェスティバル

 京都では今年3つの大きなフェスティバルが開催された。1979年から32回を数えるKyoto演劇フェスティバル(2月)は府立文化芸術会館を舞台に、アマチュアの劇団など一般部門と児童青少年部門計36団体が成果を発表しあった。第2回京都国際舞台芸術祭KYOTO EXPERIMENT2011(9月~10月)は京都芸術センターを中心に開催、様々な実験的なパフォーマンスを展開した。加えて秋には国民文化祭の演劇部門「現代劇の祭典」。遠くは茨城県、また近県・府内の6団体が参加した公募公演はアマチュアながら見応えある舞台が揃っていた。企画委員会プロデュース『林檎の木の真ん中の心臓』は京都演劇人、久々の合同公演。プロ・アマともにこうした演劇祭で刺激し合い、京都の演劇の裾野が広がることを期待したい。

若手・ベテランそれぞれに

 3月、大阪の精華小劇場で遊劇体の『蘇りて歌はん』が上演された。遊劇体は京大西部講堂を拠点に1983年に結成、泉鏡花全戯曲上演など精力的な活動を続けている。この作品は大阪の演劇プロデューサーで、99年に68歳で亡くなった中島陸郎氏が、自らの若き日の、所属していた前衛劇団の瓦解と苦悩を描いた討論劇。未上演だったのが頷ける、観念的かつ凄まじい量の台詞に溢れた手強い戯曲を、キタモトマサヤは直球勝負で演出、役者たちが見事な台詞術で力強く応えた。演じ手の芝居への熱い思いが戯曲と重なり、大阪市の財政難で3月末閉館を余儀なくされた精華小劇場の、ラストを飾るに相応しい舞台となった。
 地点『かもめ』は京都国際舞台芸術祭に参加、京都が拠点の劇団ならではのロングラン公演を行った。京都芸術センター和室と、三条の小劇場ART COMPLEX1928の2カ所で18公演。演出三浦基は台詞の抑揚や速度、区切りを変え、言葉や文体を解体する新しい手法でチェーホフ四大戯曲連続上演に挑み、海外でも高い評価を得ている。演出家が作品解釈を示すのではなく、観客が想像力を駆使して自分なりの見方をすることが要求される、刺激的な『かもめ』だった。
 長い歴史を持つ新劇団も踏ん張っている。劇団京芸を代表する役者竹橋団が8月15日、ひとり芝居『ソウルの落日』に挑んだ。日本軍軍属としてBC級戦犯となり、自国にも受け入れられずに死を選んだ韓国人の男。その歴史と苦悩を確かな演技で客席に伝え、終戦記念日に意義ある上演となった。12月には人間座公演、井上ひさし作『雪やこんこん─湯の花劇場物語─』。渾身の演劇賛歌で印象を残した。厳しい社会状況の中、創作活動を続けることが非常に難しい時代ではあるが、京都には、新旧様々な集団・演劇人たちが多彩に活躍する土壌があることを嬉しく思う。
 児童劇団やまびこ座が今年創立60周年を迎えた。子どもたちが社会に目を向け、力を合わせて創作することを支える、その息の長い活動に拍手を送りたい。(京都労演事務局長・土屋安見)
「週刊しんぶん京都民報」2011年12月18日付掲載)