新春対談─京都市長候補・中村和雄さん 大蔵流狂言師・茂山あきらさん
貧困と格差の解消へうねり
中村 初めまして。よろしくお願いします。
茂山 こちらこそ。
中村 昨年は、米国・ウォール街から始まった貧困と格差への抗議行動が大きく広がった年でした。
茂山 そうでしたね。
中村 貧困と格差の解消の取り組みで、世界的に注目を浴びているのがデンマークの国づくりです。日弁連は、この国へ調査団を派遣したんですが、その際、私は団長として参加しました。ずいぶんユニークな国づくりをしていました。
茂山 僕も数年前、海外公演でデンマークに行きました。非常に面白い取り組みをしている国だと実感しました。
中村 現在も王国ですし、超優良企業がある訳でもない。豊かな資源がある訳でない。その中で、みんなで手を携えていこうという発想が強い国です。格差を無くしていくために、医療や教育費は無償、失業手当は日本と比べものにならないぐらい充実しています。失業中でも、快適な生活を維持しながら、新たな就労準備ができます。
茂山 それはすごいですね。教育の面では、内容も面白いですよ。教育の一環として、児童演劇を積極的に取り入れています。もともと児童演劇はなかったんですが、今では世界的レベルで児童演劇が盛んな国になっています。北欧は自然が厳しい。だから、人間同士助け合う必要性を感じているんじゃないでしょうか。
中村 国を変えるのにどれだけかかったかと質問したら、彼らは、「100年ぐらい。日本ですぐにできることではない」と言うんです(笑い)。みんなで合意しながら、ゆっくり作ってきたものだと。
茂山 なるほど。
事故が政治を変える転機に
中村 もう一つ、昨年の特徴があります。それは、東日本大震災と福島第1原発事故を契機に、みんなが従来のエネルギー政策、国のあり方に疑問を持ち始めたことです。若いママやパパたちが、放射能による子どもたちの健康問題から政治的発言をしたり、デモデビューも生れました。この流れが、日本の政治を変えていく転機になるのではないでしょうか。
茂山 僕は、チェルノブイリ原発事故から10年後の1996年、犠牲者を追悼するキエフ(ロシア)での演劇祭に参加したことが大きい。これを機に、「原発はダメだ。人間が太陽を造ってはいけないよ」と積極的に発言するようになったんです。キエフでは、事故で被ばくした子どもたちが入院する病院を訪問しました。その時のことは、今も忘れられません。
中村 どんな様子だったんですか。
茂山 体にやけどの跡が残っていたり、生まれつき腕が…。本当に現実なのかと疑う光景でした。この体験が、僕の原発に対する考えを大きく変えました。
中村 貴重な体験ですね。これから、みんなが行動していく上で、脱原発に向かって、方向性や目標をしっかり持って行くことが大事ですね。
茂山 国が、自然エネルギーをもっと使いましょうと決めていたら、こんなに原発はいらなかったはずです。どちらを選ぶにしても、みんなに情報公開することが必要でしょう。結局、誰かがもうかるから、情報を隠しておきたい。利己主義が優先するんです。『ベニスの商人』に登場する高利貸しの「シャイロック」ばかりです。でも、あきらめてはだめです。少しずつでも、変えていかなければ。
中村 ぜひ、一緒に力を合わせましょう。
「京都を独立国に」が持論
茂山 そうですね。中村さんは、古都・京都と原発は相容れないと言ってますね。京都が1200年かけて築き上げてきたまちが、原発事故で一瞬にして破壊される、と。中村さんは、京都のまちづくりについて、どんな考えを持っていますか。
中村 一番大切にしたいことは、「自分たちのまちは、自分たちでつくる」です。今の市政は、全く市民の声を聞かない。東京の不動産会社の言いなりで、市民の公園に水族館の建設を許可する。左京区岡崎の京都会館も住民の声を聞かずに建て替えを進める。おかしいですね。住民参加、市民の声を大切にしたまちづくりを進めていきたいと思っています。
茂山 それは大賛成ですね。僕のまちづくりの持論は、京都を独立国にすることなんです。昔から言っているんです(笑い)。
中村 かなり思い切った政策ですね。
茂山 そうなんです。思い切った政策と発想がないと京都のまちは守れないですね。旧市街地は車を排除して、路面電車を復活する、それぐらいのことをしないとだめです。結局、京都はどこにでもあるまちになってしまいます。東京と同じは必要ない
中村 東京と同じまちづくりは、京都には必要ないですね。京都らしさを育てていくことが大事です。古き良きものと同時に先端技術もある、これが京都らしさであり、良さです。これを生かしていくべきです。
茂山 いいですね。
中村 京都は国際的都市です。京都を考える場合、国際的視野も必要だと思っています。茂山さんは30年前、日本の能と西洋演劇の理論・法を融合する「NOHO能法劇団」を結成し、世界各地で公演をされていますね。そのご経験から、京都のあるべき姿をどう考えていますか。
茂山 京都はもっと文化を大事にすべきです。ヨーロッパの老成した国々の都市は、文化が共通項です。文明より文化を大事にしています。
中村 私も同感です。地方自治体の中で、効率化が強調され、文化の予算がどんどん削られていってます。経済が優先する。企業もスポーツや文化にかけるお金を削っています。どんどん寂しい国のあり方になっています。もう一度、文化と文明の調和について、国民的合意を取っていく必要があると思います。
市民が文化を楽しんでこそ
茂山 そうなんです。京都の看板は文化なんです。ところが、観光だけの物理的な売り方しかされていない。文化的なもの、精神的なものを売っていないですね。京都を訪れた人を、ただ観光バスに乗せて、連れて回るだけではいけないと思います。
中村 文化都市とは、そのまちの市民が楽しんでいる所に、観光客が入ってきてもらうものでなければならないと思います。ロンドンやパリに行って思うのは、市民が平日に美術館に行って、芸術を鑑賞しています。京都はそうはなっていません。
茂山 その通りです。
中村 京都市民が、文化を楽しめるまちにしていく、そのための時間的経済的ゆとりを作っていく必要があります。残業、残業、低賃金では、ゆとりはありません。ヨーロッパのゆとりある、文化のまちの作り方や働き方を学ばなければと思います。
茂山 中村さんの考えには、大いに賛成です。京都は、まちらしいまちです。人が住むには、ちょうどいいまちです。ぜひ市長になって、京都を守ってください。
中村 いよいよ今月22日が告示。必ず勝利へ、頑張ります。今日はありがとうございました。(「週刊しんぶん京都民報」2012年1月1日付掲載)