住民の反対を押し切って、京都市が梅小路公園(下京区)内に誘致し、オリックス不動産(東京都)が建設した京都水族館が開業して2カ月余。必要性や目的が不明確として同館建設に物申してきた前滋賀県立琵琶湖博物館長の川那部浩哉・京都大学名誉教授に、同館の評価や教訓と課題について聞きました。

展示としての工夫がない

京都水族館開業までの主な経過 ──京都水族館をご覧になっての評価をお聞かせ下さい。
 川那部 「どこかで見たものを少しずつ」(笑)という感じですね。京都に存在する必然性はもとより、一般的にいっても新しいところがありません。
 鴨川水系でのオオサンショウウオについて、日本と中国それぞれの固有種とその交雑種がいることを取り上げたのは、ただ一つの例外でしょうが、展示としての工夫が全くされていません。ほんとうに惜しいことです。あれでは、生物多様性を考える上でのせっかくの問題提起が、来館者の胸にすっと入ってくるとは、とても思えません。

市民不在で計画憂えていた通り

  ──なぜ、こんなことになったのでしょうか。
 川那部 市民不在で計画を始め、そのまま押し切ったのがそもそもの問題でしょう。インタビュー(本紙10年10月10日付)の中などで私は、同じ「箱もの」にしても、例えば歴史博物館ではなく、近隣に優れたものもある水族館がここ京都にも先ず必要だとする理由は何か、と尋ねました。また、仮に水族館が第一だとしても、その目的や独自性、10年先の将来像を事前に明らかにすることが必須であり、「作ってから考える」のではだめだ、と強く申しました。
 こうした意見を出したのは私だけではなかったはず。しかし、何の答えもなかった訳です。この状態はそのときから憂えていた、まさにその通りの事態です。主体的に学べる場になるように

主体的に学べる場になるように

  ──あるべき水族館とはどういうものでしょうか。
 川那部 日本動物園水族館協会は十数年前から、各動物園・水族館の目的の第1を種保存や生物多様性保全への貢献だとしています。
 例えば、和歌山県白浜のアドベンチャーワールドは、パンダの出産成功で世界中から賞賛を受け、本家の中国からも注目される成果を出し続けています。
 各地の水族館もまた、かつての「見せ物」中心から、「楽しみながら主体的に学べる」場になるように、独自の努力を積み重ねています。そのためにも「もの」を作る前に、何をどのように行うのかを市民と一緒に考え、議論して決めることが欠かせません。
 私自身が前にいたので言いづらいのですが、琵琶湖博物館は、開設の10年ほど前から準備室を作り、県民と一緒に調査・研究を行い、それを基にして進めました。その結果、問題はもちろん無いわけではありませんが、みんなで調べる生涯学習施設として、市民から親しまれているようです。

研究者を集めて中長期計画を

  ──こうした水族館に近づくことは、京都水族館の場合、難しいでしょうか。
 川那部 最初に必要なことを跳ばしましたから、本格的には無理、つまり手遅れです。しかし、「取りつくろう」程度のことはせめてしなければならない、いや、それは義務でしょう。
 「学習教育施設」として市は建設を許可したのですから、この地に数多い在野の研究者をも含め、市民の意見を積極的に取り入れて、「京都ならでは」の中長期計画を考えねばなりません。そうでなければ、市民から短期間で飽きられる可能性もないとは言えますまい。京都市とオリックスは、自分自身の生き残りのためにも、真剣な努力を行うべきでしょう。
 京都の希少生物を紹介する「山紫水明ゾーン」は、間に合わせに作ったらしく意味がありませんね。ほとんどの入館者が通り抜けているようですから、市民自身に具体的な試みをやって貰ってはどうでしょうか。私も少しぐらいなら力を貸してよろしい。そこから、設備を再建設する必要性なども見えてくれば、大もうけですものね。(「週刊しんぶん京都民報」2012年5月20日付掲載)