稲刈りのあとの曼珠沙華
10月に入って、乙訓地方のイネの刈り取りがあちこちの田圃で始まりました。刈ったあとの畦(あぜ)には真っ赤に染まった曼珠沙華が写真(乙訓の里・光明寺付近)のようにひときわ目立ちます。
曼珠沙華は9月のお彼岸の頃に咲くので彼岸花と言われ、また、黄金の穂波がいっぱいの田圃の畦で華は最盛期を迎えます。日本ではヒガンバナ、ソウシキバナ、シビトバナ、カジバナなど全国で約1000種類の名前が付けられており、ほとんどが暗いイメージです。しかしヨーロッパでは学名はLycoris radiataでリコリスはギリシャ神話に登場する美しい海の女神「リコリス」から、ラジアタは「放射状」と言う意味です。英名はred spider lily(「赤いクモが足を広げているような形のユリ」という意味)で、曼珠沙華は古代インドサンスクリット語のmañjûsakaで「天上に咲く花」からです。
さて、曼珠沙華には花、茎、球根などにはリコリン(リコリスから採った名前)という毒性の物質であります。植物生理学者の田中修さんによると「毒があるから、ネズミやモグラがこの毒を嫌い、荒らさない」ので田や畑の畦や墓のまわりに植えたと言われます。
ところで、曼珠沙華の花の後には決して実・種を作らない植物です。雌雄の染色体の本数が違うので実がならないとか。ほとんどの動植物の染色体の本数は雌雄が半分ずつある「二倍体」で必ず偶数。しかし曼珠沙華は「三倍体」植物なので卵細胞、精細胞がきちんとつくれないとか。「種なしスイカ」なども三倍体。だから、日本にある全ての曼珠沙華(彼岸花)は遺伝子がまったく同じでいわばクローン植物です。ただし原産地の中国では白や黄の華を付ける別種があり、それが日本に伝わっている曼珠沙華を見かけます(府立植物園や伏見の寺院など)。曼珠沙華の葉は特殊で、冬に繁り、春に枯れてなくなってしまうので、「葉は花を見ず、花は葉を見ず」でハミズハナミズと言う名前もあります。「出会うことがないので、お互いが思いあい、花は葉を思い、葉は花を思う」で相思華の名前もあります。参考=田中修著『雑草のはなし』。(仲野良典)
「曼珠沙華一むら燃えて秋陽つよし そこすぎてゐるしずかなる径」(木下利玄)