尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる日中の緊張と対立が続くなか、志位和夫・日本共産党委員長の提言「外交交渉による尖閣諸島問題の解決を」(9月20日発表)が党派を超えて賛同と共感を広げています。元外務省条約局長で、「領土問題は存在しない」とする政府方針の転換を提唱している東郷和彦・京都産業大学教授に、尖閣問題の現状や打開の方策、「提言」についての意見を聞きました。

共産党の考えと同じ立場

衝突防ぐ「ダブルD」

 ──日中間の対立が最悪の場合、武力衝突に発展する危険性があるとして、2年前、「『領土問題ない』の再考を」との論稿を発表しました。
東郷和彦 2008年12月、尖閣諸島周辺の日本領海内を中国海洋調査船が9時間半にわたって航行した際、中国海洋当局は「領有権に争いがある場合には『実効支配』の実績が重要。有効な管轄を実現する」と公式に述べました。
 この発言には本当に驚きました。1978年の日中平和友好条約締結の際に中国の鄧小平副首相が「次世代の知恵に任せる」とした事実上の「棚上げ」方針を完全否定するのみならず、実力行使に踏み出すと言ったわけですから。もしも中国が本当に管轄権の主張を実力で示そうと領海侵入を繰り返すなら、尖閣諸島は日本が実効支配しているわけですから、対応する過程で、万一の場合武力衝突が発生し得る。日中関係は本当に危険な状態に入ったと感じました。
 こういう背景のもとで、2010年9月7日の中国漁船の尖閣領海内航行と海上保安庁船舶への体当たり事件が発生しました。この事件での中国の真意は必ずしも明らかではありませんが、一連のやり取りを通して、尖閣領有に向けた決意の固さを感じました。そこで、問題の打開に向けて、「尖閣諸島問題『領土問題ない』の再考を」との論稿を書きました(「朝日新聞」2010年9月30日付)。
 その論稿では、日本がとるべきこととして、抑止と対話を挙げました。中国が実力行使してきた場合に備えて海上保安庁と自衛隊がしっかり準備する抑止(Deterrence)、これは何も中国と戦争するためにやるのではなく、武力紛争を予防するための手段です。同時に必要なのが対話(Dialog)で、Deterrence&Dialogの「ダブルD」というのが2国間で緊張状態が起きた時に必要な政策と考えます。

“屈辱”味わわせるな

 ここで、対話ということの意味なのですが、日本政府は尖閣諸島をめぐって「領土問題は存在しない」と言い続けているわけです。これは冷戦末期、旧ソ連のグロムイコ外相が北方領土問題で日本に対して主張して対話を拒否し続け、私を含め当時の日本人が屈辱感と怒りを感じた表現と同じなのです。万に一つでも武力衝突の可能性があるぎりぎりの外交をする時に「グロムイコの屈辱」を中国に味わわせることはもうやめるべきです。前提条件なしに、双方が言いたいことを率直に言い合う外交努力こそ求められている―こう提起しました。
 基本的な考え方はこの論稿発表時と変わりません。この問題では、日本共産党の考えと同じ立場であり、私は「提言」にまったく異論はありません。(「週刊しんぶん京都民報」2012年11月4日付掲載)