障害を抱えた当事者への差別を禁止する条例づくりが京都府で進められています。「障害のある人もない人も共に安心していきいきと暮らせる京都づくり条例(仮称)」の検討会議委員を務める弁護士の民谷渉さん(29)=つくし法律事務所=に、差別禁止法制の意義や府条例づくりの中身などについて聞きました。

「何が差別か」具体的に規定

――今、なぜ差別禁止法制が議論されているのでしょうか

民谷渉弁護士

 憲法14条では差別を受けない権利が規定され、障害者基本法第3条にも「差別を禁止する」という文言があります。しかし、障害のある人もない人も同じ“道”を歩く社会へと進めば進むほどに、周囲の無理解や偏見などから障害当事者が日常生活のさまざまな場面で差別されたり、不利益な対応を受けて悔しい思いをする場面が生まれています。憲法や障害者基本法には盛り込まれていない、何が差別となるのかの具体的基準や差別を受けた場合にどう救済するのかなどを規定するのが差別禁止法制の役割です。
 日本では、千葉、北海道、熊本、岩手の各道県とさいたま、八王子両市などで既に差別禁止条例が制定され、国レベルでは2010年から「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」が検討されています。

――障害ある人への差別にはどんなものがありますか

 「直接差別」「間接差別」「合理的配慮の不提供」の大きく3つに分類されます。「直接差別」は、精神障害の方は飛行機に乗れないとして搭乗拒否をする場合のように障害を理由として他の人と異なる対応をすることです。「間接差別」は、表向きは障害を理由としていないものの、中立的な基準をそのまま適用することにより、結果的に差別的な対応をとるものです。例えば、仕事中の事故で足を切断した社員が車いすのため通勤手段を公共交通機関からマイカーに切り替えざるを得ないが、会社側がマイカー通勤を禁止していて、そのまま退職せざるを得なかったというような場合です。「合理的―」は、他の人と平等な権利行使の機会を確保するために必要な措置が講じられないことで、例えば、視覚障害のある人が授業を受ける際、学校側が必要な点字資料の準備を行わない、といったことがあてはまります。
 条例では、福祉や医療、商品・サービスの提供、雇用、教育、公共交通機関の利用、不動産取引などの分野ごとにこれらの差別の禁止を定めることになります。なお、この3種型に、障害に関連する事由を理由とする関連差別を含める場合も多いですが、このように、差別の定義は固まったものではありません。

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――救済はどんな仕組みですか

 差別禁止法制がない現状では、差別や不利益な取り扱いを受けた際の被害回復の手段は、裁判しかありません。しかし、少額の慰謝料を中心とした民事裁判の損害賠償で争うこととなり、個人の尊厳が損なわれているという本質が問われません。
 日本で最初に制定された千葉県の条例(07年施行、「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」)では、県が設ける調整委員会が差別事案の申し立てを受けて解決のための調査や助言・あっせん、従わない場合の企業等への勧告などを行う、と定めています。
 また、差別禁止法制があれば、裁判を起こす場合にも、何が差別かが法的に規定されているため、違法・不法行為の認定をしやすくなるという効果もあると思います。

――府の条例づくりはどんな段階ですか

国の法制議論にいい影響を

 検討会議は昨年3月に、障害当事者や障害者団体代表、有識者など33人の委員で発足しました。これまでパブリックコメントやタウンミーティング(3回開催)などを踏まえて6回の会議を行い、27日に開催される第7回検討会議で条例案のたたき台となる「中間まとめ」が出される予定です。
 条例制定はもともと、09年2月に府内の障害者団体が立ち上げた「障害者権利条約の批准と完全実施をめざす京都フォーラム実行委員会」(委員長=竹下義樹弁護士)が提唱してきたもので、府知事、京都市長あてに条例制定の要望書も提出しています(10年2月)。
 私はこの実行委員会の事務局も務めているのですが、今回、実行委員会では府の検討会議と並行して当事者による独自の検討部会や集会、ワークショップなどを行い、見落とされがちな女性の障害当事者の問題や差別の類型にあてはまりにくいハラスメントの事例など検討会議の議論に反映させてきました。こうした障害当事者の思いから出発した条例づくりや議論の進め方は京都の特徴と言えます。

――政権交代で、国の差別禁止法制の議論が進んでいません

 内閣府に設けられた差別禁止部会は昨年9月に差別禁止法制についての意見書をまとめました。これを受けて政府は今通常国会に法案を提出する予定でしたが、今のところ提出の動きはありません。府の条例づくりが国の議論にいい意味で影響を与えられたらとも思っています。
 最終的な目標は、障害者権利条約が目指す障害ある人が地域で普通に暮らせる社会です。同時に、障害者差別にかかわる運動を行うことにより、国全体の社会保障制度が大きく揺らごうとしている今、分野を超えて生存権が守られる社会づくりを問うものにもしていきたいと考えています。(「週刊しんぶん京都民報」2013年2月17日付掲載)