アセビ 2月の下旬に入っても冷たい北風がいつまでも吹く京都の街ですが、左京区にある京大試験地(京大フィールド科学教育研究センター北白川試験地)にはアセビやマンサクの花、そして淡黄褐色のヒゼンマユミなどが春を告げるように咲いています。マンサク(マンサク科で学名=Hamamelis japonica:名前は他の花に先駆けて咲く=「まず咲く」、東北弁で「まんず咲く」とかいっぱい咲くので「満作」など)は、厳冬にあっても年明けに一番早く花を咲かせる「春を告げる木」です。ヒゼンマユミ(ニシキギ科で学名はEuonymus chibae)は、今は花ではなく1.8センチほどの倒卵状の球形の黄色のかわいい蒴果を付けています。茶色くなった卵形の葉を散らさず、小枝にいっぱい付けたままです。萼片の間からクシャクシャ丸まった黄色い花びらが少しずつ伸びて長さ5センチほどの髭状に付けます。厳冬の中でも春を告げ不思議な形の花を付けるので庭にもよく植えられているようです。
 アセビ(アシビ、アセバ、アセボ、アセミとも。万葉植物の一つ。ツツジ科で学名Pieris japonica)。漢字の「馬酔木(あせび)」は、馬が葉っぱを食べると酔ったようになるところからです。有毒植物で馬に限らず人間も含めて動物の呼吸中枢を麻痺させます。古くは「悪し実(あしみ)」、「足しびれ」、「足癈(あしじひ)」や「足撓(あしたわみ)」などが訛って「アセビ」又は「アシビ」になったといわれます。また、「馬不食(うまくず)」とか「鹿不食(しかくわず)」の別名もあるとも言われています。写真(同試験地で2月20日撮影)のように小さな壺形(円錐花序)の白い花を房状にいっぱい垂れ下がっています。葉っぱは互生し、長さ3センチほどの倒披針形で厚い革質。小花は手のひらに押し当てるとパチパチという小気味よい音を出してつぶれるので、昔の子どもたちは「パチコ」といって遊んでいたようです。
 前述したように有毒植物なので奈良公園の鹿たちも食べないので公園(特に春日大社参道)にはアセビの古木がたくさんあって小径を覆うぐらい大きくなっています。万葉人はアセビをうたった
熱烈な恋の詩を贈っています。(仲野良典)
 「我(わ)が背子(せこ)に我(あ)が恋ふらくは奥山のあしびの花の今盛りなり」(岩波書店刊『新日本文学大系』第2巻:万葉集巻10-1903)