京都南法律事務所弁護士 岩佐英夫

狙いは憲法の全面改悪

 自民党は昨年4月27日に全面的な改憲草案を発表し、衆議院総選挙の「政権公約」で改憲草案国会提出を掲げ、選挙結果は自公合計で325議席となり3分の2(320議席)を超えました。安倍政権が大型公共事業や大企業支援の「経済再生」で国民を一時的に欺くのに成功して7月の参院選挙で3分の2を確保した場合には、改憲の動きが激しくなる危険性があります。しかしながら、国民世論は「9条改憲反対」が52%です(12月28日「毎日」)。こうした状況下で改憲勢力は、当面ふたつの方向を打ち出しています。
 ひとつは、改正手続を定めた憲法96条の「衆参総議員の3分の2以上の賛成で発議」というハードルの2分の1への引き下げです。しかしながら、96条改憲の最終的狙いは9条明文改憲をはじめとする憲法全面改悪にあることは明瞭です。
 もうひとつは、9条の明文改憲が直ちには困難な状況下で、歴代自民党政権すら認めてきた「集団的自衛権行使は憲法9条違反」との政府解釈(この詳しい経過は次週の筆者に譲ります)を変更し、集団的自衛権行使を容認することです。自民党は、これを議員立法による「国家安全保障基本法」制定という形で実現しようとしています。
 「集団的自衛権行使」といいますが、それは“日本を守るため”ではなく、アメリカと海外で一緒に武力行使をすることに過ぎません。もともと現行憲法のもとでも集団的自衛権行使容認論者である安倍首相は、「(集団的自衛権行使容認は)米軍とともに武力行使・テロリスト排除が可能になること」と認めています(「論座」04年2月号)。

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米国支配層の意向を代弁

 この流れの根底には「アーミテージ報告」にみられるようにアメリカの強い圧力があります。「アーミテージ報告」は共和・民主両党にまたがる「超党派」の政策研究集団(「戦略国際研究所」・CSIS)の報告書であり、いわば米国支配層の意向を代弁するものです。CSISは約220名の常勤スタッフを擁し、地球規模での情勢を分析し、軍事・外交のみならず政治・経済問題についても「勧告」と称する日本への命令を出してきました。これまで第1次(小泉政権誕生の半年前の00年10月)、第2次(安倍第1次政権のときの07年2月16日)、そして12年8月15日に第3次報告が発表されました。
 第1次報告では、米英同盟を米日同盟のモデルとし、「日本が集団的自衛権を禁止していることは、同盟国間の協力にとって制約となっている」と指摘したことで有名です。
 第2次報告では、集団的自衛権の行使の容認を再度要求し、憲法9条改憲要求を事実上示唆する文言が4カ所もでてきます。「海外派兵恒久化法」の制定・自衛隊の「動的展開」、軍事費大幅増額、武器輸出3原則の全面解除、米日軍の統合運用、国家機密情報保護体制・日本版NSCの整備等も要求しています。
 第3次報告では、集団的自衛権行使容認の要求から、さらに大きく踏み込んでいます。
 安全保障・軍事面における日本の「役割・任務・能力」の「見直し」、「日本領土の範囲をはるかに超えて」、より積極的、相互分担、相互運用可能なISR(情報、監視、偵察)の能力・運用(例えば、「南シナ海」での「米日共同監視」)を要求。平時・緊張時・危機的状況時そして戦時のすべての局面を通じて米軍・自衛隊の全面的協力を要求しています。
 また、米国の他の同盟国も含めた「共同演習」の強化、「日米の統合運用」を強調しています。日本の武器輸出3原則緩和のもとでの欧米諸国も含めた「武器共同開発」の推進や、「統合運用」との関係で、秘密保護法制の整備を強く求めています。

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自民・民主の国防族と意気投合

 こうした全面的な要求を日本におしつけるために、昨年10月26日にはCSIS・日経新聞の共催で主要メンバーのアーミテージ、キャンベルや石破・林、玄葉・前原など自民・民主の国防族が出席するシンポジウムを開催し、集団的自衛権行使で意気投合しています。
 既に、集団的自衛権行使の容認に向けた既成事実が着々と積み重ねられ、「動的防衛力」の名のもとに米日両軍司令部の一体化・統合運用、米・韓・豪などとの頻繁な共同訓練、米英などとの武器の共同開発のための武器輸出3原則の緩和、軍事衛星打ち上げ等の宇宙開発等々が進められてきました。
 日米の軍事一体化や武器共同開発は、必然的に「秘密保護」を要求します。民主党政権が12年通常国会では見送った「秘密保全法」の国会上程の危険性が、自民党政権のもとで強まっています。
 改憲勢力は国連憲章51条を口実に「集団的自衛権を保有するが行使できない」という従来の政府解釈はおかしいと攻撃しています。しかし、日本は国連加盟の際、「憲法9条を有する日本は国連活動といえども武力行使には協力できない」という立場を明確にして加盟を承認されています。国連憲章2条4項(国際紛争の平和的解決の義務)・日本国憲法9条及び前文の精神に立った平和外交こそ、真の国際貢献であり、日本の安全を保障する道です。(「週刊しんぶん京都民報」2013年2月10日付掲載)