米軍の高性能ミサイル追尾レーダー「Xバンドレーダー」が06年から配備されている、青森県つがる市旧車力村。のどかな農村が、突如「米軍の最前線基地」に変貌しました。基地周辺の様子、住民の思いを取材しました。

「攻撃目標」を常に不安

 広大な森と畑の間を抜けていくと、有刺鉄線の金網が並び、「WARNING」「警告 在日米陸軍基地」と書かれた看板が現れます。
 「米軍基地」の門前。腰に銃をぶら下げた恰幅かっぷくの良い米軍警備員2人が現れ、記者が取材を申し込むと「ノー、ノー」と首を横に振ります。常駐する米国人通訳が「基地に関することは言えない」と取材を拒否しました。
 「レーダーなんてもの、ねぇにこしたこたぁねぇんだ(無いにこしたことはない)」。近くの農家の男性(75)は声を上げます。「隣の国と平和にやってりゃあ、いらねえ。(レーダーがあるせいで)車力が攻撃されるんじゃねぇかと思ってるんだども。交付金が出るなんて言うけれども、それじゃあ原発といっしょだべ」
 他の住民からも「ミサイルが飛んでくっかもな」「外国から襲われるとしたら、ここだろうな」などの声が上がります。
 同レーダー配備に反対してきた、青森県平和委員会の金田武三郎さんは、「レーダー配備は、米軍の最前線基地になるということ。有事の時に『車力が攻撃目標になる』という不安は常に住民の中にあります」と指摘します。
 車力地区のレーダー配備計画が発表されたのは05年10月。現地では「レーダー配備に反対する会」などが運動を展開する中、06年3月に青森県知事とつがる市長が受け入れを表明。同年6月にはレーダーが搬入・配備されました。
 配備計画発表から、わずか8カ月で配備された事に対し、住民からも「反対しようがしまいが、初めっから決まってたんでないか」「説明会も形だけだった」など、疑問・憤りの声が上がります。
 前述の金田さんは、「十分な説明や、住民の賛否も聞かないまま、アメリカの言うがままに配備を強行しました。こんなやり方は憲法に反するもので、許せません。レーダーいらないの声を京都といっしょに上げていきたい」と語ります。

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電磁波―住宅地との距離 車力2キロ余、京丹後400メートル

青森・車力に見るXバンドレーダー基地

 京丹後市では、Xバンドレーダーが放つ電磁波による健康・環境へ被害に、不安が広がっています。防衛省側は「車力では、被害はない」と繰り返し説明していますが、両地区は地理的条件が大きく異なります。本当に「安全」と言えるのでしょうか。
 車力地域で住民から聞き取ると、「家から遠いので、健康被害はない」「電波障害など、問題は起こっていない」と声を揃えます。
 同レーダー配備場所から車力の住宅地域までは、2キロ以上離れています。一方、京丹後市は配備予定地から数十メートル~数百メートルの範囲に住宅が並びます(参照)。
 近隣の農家・住民から聞き取りをしている、日本共産党の花田進・五所川原市議は、「電磁波による被害はほとんど聞いたことがありませんが、車力ではレーダーと住宅地は大きく離れています。京丹後は住宅のすぐ近く。条件がまったく違うのに、なぜ『電磁波の影響がない』と言い切れるのか」と指摘します。

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米軍属が暴行、逮捕 車力で事件・事故9件

 つがる市や配備計画地の京丹後市では、米軍関係者による犯罪・事故への不安が広がっています。同レーダー配備後、車力基地の米軍属が起こした事件・事故は9件(暴行1件、住居侵入1件、交通事故7件)に及びます。
 昨年11月、つがる市に隣接する五所川原市の繁華街で、米陸軍車力基地警備員の米軍属男性(50)が、傷害容疑で緊急逮捕される事件が発生。飲食店経営の男性(65)の顔を数回殴り、鼻に軽いけがを負わせました。
 警察から事情を聞いた、事件現場の土地所有者の男性=米穀店経営=は、「酔っ払った軍属米国人を心配して声をかけたら、顔を何度も殴られたと聞きました。米軍関係者の事件が自分のガレージ内で起こるなんて。驚きました」と語りました。
 同事件発生後、つがる市長は、米軍へ抗議し、綱紀粛正と教育の徹底などの措置を求め、要請しました。
 同レーダー配備により、行方不明者捜索ヘリの飛行時間が制限される事態も生まれました。レーダー周辺の日本海側半径6キロ、上空6キロ範囲が飛行禁止区域とされたからです。
 06年6月、レーダー基地から約5キロの禁止区域内にある海上で、水上バイクに乗っていた男女2人が行方不明となる事故が発生。海上保安庁が米軍と折衝し、当日夜から翌日午前10時まで飛行禁止を解除。ヘリで捜索しましたが2人は発見できず、さらに解除を要請。結局、同日午後3時から5時までの2時間しかヘリを飛ばせず、2人を発見することはできませんでした。
 青森県の地方紙「東奥日報」社説(06年8月4日付)では、「禁止区域解除のため、米軍と協議して同意を得なければならない」「空からの捜索は制約を受けた」「捜索に支障なしと言えるのだろうか」と述べています。(「週刊しんぶん京都民報」2013年4月7日付掲載)