「集団的自衛権」行使へ安倍政権が暴走~京大人文研所長・山室信一x「憲法9条京都の会」事務局長・小笠原伸児特別対談(1)
「法の番人」から「内閣の番犬」に
小笠原伸児さん(小笠原) はじめまして。2008年に京都憲法会議や自由法曹団京都支部が共催した「憲法記念春の集い」で講演を聞きました。
山室信一さん(山室) そうでしたか。前年(07年6月)に出版した「憲法9条の思想水脈」についてお話ししましたね。この本を出したのは、第1次安倍内閣で憲法改正手続きを定めた国民投票法が国会提出されたことがきっかけでした(07年5月成立)。
小笠原 いわゆる改憲手続き法ですね。政府は「単なる手続き法」と強調しましたが、あくまで狙いは9条改憲でした。
山室 その通りです。昨年の総選挙の結果、再び安倍政権が誕生し、「憲法改正は私の歴史的使命」とまで述べて、改憲に意欲に見せている、その手法に危機感を抱いています。
小笠原 同感です。今、焦点は「集団的自衛権」行使に向けた激しい動きです。狙いの本質は、アメリカと一緒になって戦争する国にすることにあると思います。17日には「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇、注2)が行使容認に向けた議論を再開しますし、何より極めて乱暴なのは、従来の政府解釈を変更するために内閣法制局長官を「行使容認派」の人物(前駐仏大使・小松一郎氏)に強引にすげ替えたことです。
山室 彼(小松氏)は第1次安倍内閣の時の安保法制懇で事務方を務めた人物です。狙いははっきりしています。政府が提案を予定する「国家安全保障基本法案」(注3)は集団的自衛権の行使を前提にしていますので、従来の法制局見解では9条に抵触して提出できないからです。この人事で内閣法制局の存在理由は大きく変わりました。内閣法制局は護憲の府ではありませんが、「法の番人」から、「内閣の番犬」になります。法治国家として、将来に禍根を残すでしょう。
歴代の長官が異例の「異議」
小笠原 小松氏は長官就任後、メディアのインタビューなどで集団的自衛権行使について、「隣家に強盗が入って殺されそうだが、パトカーがすぐ来ないかもしれないので隣人を守る」という例示で正当化していますね。おかしな理屈です。
山室 ええ、実際の国際関係で、“隣家に強盗が押し入る=他国が何の前触れもなく攻撃してくる”なんていう状況がありえるでしょうか。事前に何らかの紛争があって、それにどう対処するかという問題です。現実を見ない俗論です。
小笠原 山室さんは衆議院法制局での勤務経験があると聞きました。
山室 70年代後半です。衆院各党が提案する修正案や議員立法の審査が主な内容ですが、「とにかく憲法に違反してはいけない」と言われながら仕事をしたのを覚えています。結局、ここで働いたことで明治憲法下で法制局長官を務めた井上
小笠原 そうだったんですか。今回の事態で特徴的なのは、歴代の長官経験者が「国会の憲法論議の蓄積を無視していいのか」「解釈変更はできない」など相次いで異議の声を上げていることです。内閣法制局は戦後の自民党政権のもとで、憲法学界の多数説では違憲とされる自衛隊を「戦力」ではなく「自衛に必要な最小限度の実力」であるという理屈で合憲と解釈するなど悪い役割を果たしてきた面がありますが、そうした立場からも認められないほど無理な解釈だということです。
96条先行改正に通じる邪道
山室 法制局が戦後一貫して憲法9条と相容れない安保条約の体制をさまざまな理屈をつけて承認してきたことは事実です。結局、9条のもとで自衛隊の存在や海外派遣も許容してきたけれども、最後の守るべき一線まで来てしまったということでしょう。それが集団的自衛権行使なんです。これを許したら9条そのものが瓦解します。
小笠原 まさに9条の有名無実化です。また、時々の政権の意思で憲法解釈の変更を可能とするなら、憲法への国民の信頼は揺らぎ、法治国家の土台を崩します。立憲主義を無視した96条改憲にも共通する
【注1】 自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利。日本政府は、集団的自衛権は憲法9条が許容する「自衛の必要最小限度」を超えるものであり、行使できないとしています。
【注2】 集団的自衛権の行使を全面的に可能にすることを検討する安倍首相の私的諮問機関。委員は13人で、座長は柳井俊二元駐米大使。第1次安倍政権期の07年5月に発足し、翌年集団的自衛権の行使を求める報告書を提出。今年2月に再開しました。
【注3】 自民党が政権復帰前の昨年7月に法案を決定。集団的自衛権の行使を解禁する内容になっています。
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