京都市公契約基本条例の評価と問題点 中村和雄弁護士に聞く
――市は市民意見を踏まえ、9月議会に条例案を提案する予定です。「考え方」と「条例案」をどう評価しますか。
公契約条例がなぜ必要なのか、その前提をまず説明します。
90年代以降の「構造改革」路線で、地方自治体では経費削減を目的にした公共サービスの民間委託や低価格の物件調達が広がり、関係する労働者の賃金低下をもたらしてきました。「官製ワーキングプア」を生み出すだけでなく、公共工事の質の低下を招くというところまで問題は深刻化しています。
こうした状況を打開するため、適正な賃金の導入を位置づけた公契約条例を求める運動が全国に広がり、賃金規定を盛り込んだ条例が千葉県野田市を先駆けとして全国で制定されてきました。賃金規定は条例の核心部分です。
ところが、京都市の場合この核心部分がありません。OECD諸国のなかで最低のランクの日本の最低賃金を、他の自治体が公契約条例で底上げをはかっている時に、逆行でしかありません。
確かに、賃金条項を除けば、中小企業の受注拡大、労働者の適正な労働環境の確保、公契約の適正な履行を掲げるなど、条例案の方向性は間違っていませんが、その実効性については期待できません。市や受注業者は「努める」とあるだけです。義務や権利規定のないものは「条例」とは呼べません。市の条例案は、理念を定めた「宣言」に過ぎません。
――条例案の具体的問題点はどこにありますか。
賃金条項がないのは決定的です。賃金規定を盛り込んだ自治体では、賃金アップだけでなく経済波及効果も上がっています。ところが、市は通り一遍の調査をしただけで、「賛否両論ある」、地域全体の波及効果は「不明確」として、賃金規定を設けないと結論づけています。まともに市が検討、調査したとは思えません。
賃金とともに雇用の安定、質と継続の確保は重要です。条例案では、適正な雇用・労働条件の確保を掲げていますが、努力義務です。これでは、委託事業者などが代わった場合、労働者の雇用や労働条件が継続されるのか、何の担保もありません。具体的基準や規定あってこそ、違反事業者を指導し、条例の目的が達成できます。
地元中小企業への発注も同様です。十分とは言えませんが京都府の公契約大綱では、府内企業への発注を徹底するため、原則府内企業に発注し、「例外的に府外企業の入札参加を認める工事は、別途第三者委員会でチェックし公表する」ことなど、少なくとも基準を示しています。この点から見ても、市の条例案は見劣りがします。
条例の適用範囲が狭いことも問題です。市と市が業務委託をする指定管理者に対象を限定していますが、独立行政法人や公社を盛り込むべきです。公契約を審査する第三者委員会について、学識経験者だけでなく、労働者代表、使用者代表の三者構成にすべきでしょう。
――今、どういった運動が必要ですか。
パブリックコメントに、具体的に問題点を指摘した意見を集中することです。実効性のない「宣言」ではなく、本来の公契約条例へ一歩でも近づけるため総力を上げましょう。
労働組合では連合、全労連などが制定を求める運動を展開。今年4月までに、公契約に関する条例を制定した全国の自治体は24に上ります。うち賃金規定を持つのが千葉県野田市をはじめ16自治体。残り8自治体は、賃金規定はなく、公契約の理念、目的などを明記した条例です。
野田市では、条例の効果を毎年点検・確認しながら、適用範囲を拡大するなどの条例強化を実施。地域経済への波及効果については、多摩市が13年、12年度の公契約対象となった42受注者に対しアンケートを実施したところ、「地域経済の活性化につながった」が15%、「今後地域経済の活性化につながると考える」が44%で、約60%が前向きに評価しています。
京都市公契約基本条例(仮称)についての市民意見(パブリックコメント)は、京都市のホームページ(http://www.city.kyoto.lg.jp/templates/pubcomment/gyozai/0000183374.html)を参照。