公共施設等総合管理計画と学校統廃合 和光大学教授・山本由美
■単なる「公共施設」として廃止対象に
全国の自治体で学校統廃合が急増している。特に京都では、京都市に合併した広大な旧京北町の3小学校と1中学校の小中一貫校化計画をはじめ、複数の市町の小中学校、北部地域の高校など、多くの施設が対象となっている。
今、学校のみならず、公民館や病院などすべての公共施設の廃止・統廃合・民営化を推し進める原動力が、2014年に総務省が自治体に策定を「要請」した公共施設等総合管理計画である。国土交通省の「インフラ長寿命化計画」を受けて総務省が同年に出した同計画の「指針」は、公共施設再編への「PPP(公民連携)・PFIの活用」、「施設の数や延床面積等(を減らすため)の目標」策定を挙げた。
学校も単なる公共施設として、固有の教育的価値やコミュニティーに果たす役割を無視されて簡単に廃止対象となる。加えて、15年に文科省が58年ぶりに学校統廃合の基準を改正し、16年度から小中一貫校(義務教育学校)が法制化されたことも、統廃合増を後押ししている。
背景には「地方創生」政策がある。道州制が進まないことに業を煮やした政府が、人口減による「消滅自治体」で脅しをかけ、「選択と集中」の名のもとに、活力のなくなった地域を切り捨てて大企業が活動しやすいように再編していこうとする。
特に学校統廃合により、住民の生活圏であり、自治や福祉などを実質的に担う単位である小学校区コミュニティーを破壊することができる。また民間委託、跡地活用によって、企業に新しい市場を開ける。京都市で、小学校跡地をホテルなど民間に貸与する計画などは典型的なケースだ。
■京都は全国3位、知事の姿勢反映
また、住民に問題視されないうちにそっと採択されることが多く、議員すら危機感を抱かない状況がみられる。しかし京都府は16年10月段階で12自治体がすでに提出し、提出率48%(全国平均は29・3%)で、全国第3位と先行自治体なのだ。山田府知事の新自由主義路線も影響しているのだろう。
そして全国の4割の自治体が計画策定に民間のコンサルタント会社を利用しているために、どこへ行っても同じような内容が見られる。例えば、学校施設については「中1ギャップが問題で、グローバル英語が必要、だから小中一貫校(実質的統廃合)を」などといった同じような国策に沿った記載が並ぶ。
また同計画は、自治体に交付金や地方債をもたらす、いわゆる「ひもつき」改革だ。まず、14年から17年3月までの期間に計画を総務省に提出すれば、策定費が特別交付税の対象となる。
次に、史上初めて公共施設の〝解体費〟が地方債の対象(75%)とされたことの意味も大きい。それによって、「平成の大合併」で合併された自治体の公共施設が、「合併10年後の特別交付税減額期を迎え、施設維持費が足りなくなった」という「口実」でどんどん廃止・統合され解体されている。
また、複数の公共施設を「集約化(ただの統廃合)」したり、「複合化」したりすると、これも「最適化事業債」の対象となり、やはり地方債適用となる。この期限が17年度であるため、駆け込みで統廃合を計画する自治体も多い。
特に関西で、複数の保育園と幼稚園をすべてまとめた認定こども園や、巨大な「収容」施設のような学童保育の計画が進められている。
■地域づくりの核として
しかし、過疎地の合併自治体だけでなく、首都圏の裕福な区・市においても、同計画によって小中一貫校化、施設民営化などが浮上し紛争化している。
東京都新宿区では複数の自治体を手掛けるコンサルタントが、将来的に公共施設の改修工事にかかる総額を意図的に大きく見積もり、巨額の赤字を算出した。それを根拠に公共施設の強引な統廃合計画が出されたことに対して、野党側が計画を分析・批判したパンフレットを作成し、議会で紛糾している。施設更新費の算出に全国同一基準の「総務省作成のソフト」が用いられることが、数字のトリックを生み出す一因である点も批判される。墨田区などは自治体独自の算出を行っている。
単なる子ども数の減少だけで、コミュニティーの文化的核である学校が失われるのは問題だ。逆に、魅力的な学校や地域の存在が子育て世帯のIターンなどを引き出し、「教育による地域づくり」が実現しているケースもある。学校統廃合は、長いスパンの町づくり、町おこしの一環として考えていくべきだ。
(写真=京丹後市で開かれた、高校再編問題について考える市民集会〔2016年11月〕)
(「週刊京都民報」4月23日付より)