核廃絶へ~折り鶴対談〈上〉国際NGO「ICAN」国際運営委員・川崎哲さん✕京都原水爆被災者懇談会世話人・花垣ルミさん
■被爆者を先頭に切り開いてきた
花垣 ノーベル平和賞の受賞、おめでとうございます。被爆者として核廃絶に向け、頑張ってきて本当に良かった、心からそう思っています。
川崎 ありがとうございます。これはICAN(アイキャン)という運動全体に対する賞です。核兵器の廃絶を願ってずっと活動されてきた方がたくさんおられます。とくに広島や長崎の被爆者の方々は、花垣さんのように先頭に立って道を切り開いてこられました。
花垣 はい。多くの被爆者の皆さんが頑張っておられます。
川崎 私もピースボートの活動で多くの被爆者の方々とお付き合いがあります。勇気を出して語り継いでこられたことが、二度と悲劇を繰り返してはならないという、大きな国際世論となってきたと思っています。その皆さんが切り開いた後ろに多くの運動や市民団体、NGOが続いてきたということです。ですからこの受賞は、私がおめでとうと言われるものではなく、みんなでおめでとうと言いたいですね。
花垣 受賞したのが国の首相でも国際機関でもない、市民運動。それも世界各地の若者が中心でしょう。それがうれしいです。
川崎 まさに名もなき人たちの集団です。ICANには101カ国、468団体が参加しています。核兵器禁止条約を作ろうとみんなで作り上げてきた運動が評価されたわけですから、この条約を大きく育てて前に進めようという思いが込められていると思っています。
花垣 7月7日の国連での条約採択のニュースが流れた時、たくさんの人からメールが届き、涙が止まりませんでした。「ヒバクシャ」という言葉が条約に明記され、被爆者に思いを寄せた文言を読み、生きていてよかったと思いました。
川崎 私は条約採択の現場にいましたが、その時のことは忘れられません。条約は、核兵器の使用、開発、実験、製造、保有のほか、核抑止力の根幹である「威嚇」も禁じました。条約の多くは、自衛のためならやむを得ないなどという例外が付きますが、「完全に核兵器は禁止」です。これは非常に大きな意味があります。条約は国内手続きを経て批准した国が50カ国に達した日から90日後に発効するので、来年中には発効する可能性が高いといわれています。
花垣 今は53カ国が署名していますね。残念ながら日本政府は反対を表明しています。
■核の非人道性、日本が言うべき
川崎 そうなんです。国連加盟国の3分の2が核兵器禁止条約に賛成しているのに。日本は少数派です。日本政府の態度は世界の少数派だということを日本の皆さんにもっと知っていただきたいと思います。日本政府の言い方の特徴は「核兵器を全面禁止したら困る」「北朝鮮の核は禁止してもいいけどアメリカの核は禁止したら困る」というもので、トランプ米大統領と一緒になって、条約にかたくなに反対しています。
花垣 唯一の被爆国である国の国民として恥ずかしい限りです。
川崎 核兵器の使用は、取り返しのつかない被害を人にもたらし、環境を破壊してしまいます。だから誰が発射しても許されることではありません。それを言うべきなのは、まさに日本なんです。核に対しては核が必要という議論は、世界中を危険にする議論です。そこは頭を冷やしなさいと、大多数の国が核兵器禁止条約が必要だよと言っているんです。
花垣 安倍首相は、憲法9条も変え、戦争できる国にしようとしています。
川崎 日本が核廃絶に後ろ向きだということと改憲の動きは関係していると思います。9条に新たに3項を設け、自衛隊を明記したら、集団的自衛権の行使容認が閣議決定されていますから、戦争してもいいという議論になってきます。そうやって戦争を可能にする道筋を作り、核保有国による核兵器使用も辞さないという考えが出てくる。
花垣 二度の世界大戦の反省は何だったのかということですね。(〈下〉につづく)
(「週刊京都民報」12月3日付より)