“私たちの父親像”後世に 三池炭鉱労働者の姿を絵本に 京都市伏見区・東川絹子さん『海底の紙ひこうき』
九州の三池炭鉱で働いていた父の思い出とともに、社宅での幸せだった暮らしを伝えたいと東川絹子さん(71)=京都市伏見区=が、絵本『海底の紙ひこうき』を昨年8月に出版。元炭鉱関係者らからの問い合わせもあり、11月に増刷されました。
「とうちゃん 海の底で どげんして 働きよっと? ふとーか機械ば 動かすとな」「そうたい! みんなと順番に 交替して 力ば合わすっとたい」。深い海底の下で採炭作業をする仕事への誇り、仲間への信頼が父から幼い娘に語られます。
絵本の主人公は、1963年、海底600㍍の坑内で起こった炭じん爆発事故で低酸素のため、高次脳機能障害になった父親を持つ少女です。
東川さんは福岡県の大牟田南高校を卒業後、京都で大学生協に就職。驚いたのは周囲の人たちの炭鉱に対する無関心さでした。
「関西炭鉱記憶の会」メンバーとして、退職後、高校の卒業生20人から聞き取りした話を2017年5月、大阪市で行われた「炭鉱の記憶と関西 三池炭鉱閉山20年展」で、絵本と同名の紙芝居として上演。「本の〝とうちゃん〟は、三池炭鉱で働く私たちの父親像。本にして残したい」と自費出版しました。
心豊かな社宅での暮らしを
文面を考えながら、思い出すのは社宅での暮らしでした。与論島からの移住者が住んだ「新港町社宅」では、違う社宅の子どもたちも一緒に歌って踊った思い出があります。組合主催のバレーボール大会、歌や芝居の発表会、キャンプ、海水浴など、文化活動が盛んでした。「親が病気になった家の子どもを預かったり、3交代勤務なので、よその家に上がり込んでごはんを食べさせてもらったり。厚い信頼と心の豊かさがありました」
東川さんは、若者に読んでほしいと言います。「孤独な若者が多い中、人を信頼するきっかけになればうれしい」
『海底の紙ひこうき』(文・東川絹子、絵・原田健太郎)。英文付。1852円(税別)。問い合わせは同時代社☎03・3261・3149。