『カミと蒟蒻』初演(2016年5月、人間座スタジオ)

 太平洋戦争末期、京都をはじめ全国で製造された秘密兵器「風船爆弾」が米国に向けて飛ばされてから、今年で75年を迎えます。社会派劇団シアターリミテは、京都で同兵器の製造に携わった人々の心情に光を当てた『カミと蒟蒻』を、7月5日から7日まで東山青少年活動センター(東山区)で上演します。

 風船爆弾は、和紙をこんにゃく糊で貼り合わせた気球に爆弾を搭載し、偏西風を使って米国本土の攻撃を狙ったもの。全国で製造され、1944年11月から翌年春まで、茨城県の海岸から飛ばされました。京都では、祇園甲部歌舞練場などで製造され、華頂高等女学校(現・華頂女子中学高等学校)の生徒らが動員されました。

 脚本は劇団代表で劇作家の長谷川源太が執筆。出身地の茨城県から放球されたことは母親から聞かされていましたが、京都でも製造され、製造に携わった元女学生の回想などを取材した新聞記事を読み、2014年に脚本化。16年に京都で初演し、同年の劇作家協会新人戯曲賞では最終候補作に残りました。今年が75周年にあたるため、加筆し、再演することにしました。

 大手企業経営者の娘で、華頂高等女学校に通う佐々木幸子が主人公。兄をミッドウェー海戦で亡くし、敵を討ちたいと風船爆弾製造に志願。そこに茨城県の貧農出身で、幸子に心をよせる反戦思想の大学生・大津俊介、風船爆弾製造の指揮にまい進する軍人・小川慎次郎がからみます。

 空襲による幸子の家族の死、大津の戦死、敗戦…をへて小川と幸子は結婚。大津を理解できず冷たくあしらったことが、時とともに、心の刺となって2人を苦しめます。老境を迎え、新聞記者が取材に訪れます。

 なぜ、日本人は紙とこんにゃくの兵器で米国に勝てると信じたのか、政府が戦争出来る国に向けて改憲に舵を切ろうとしているときに政府の言い分を信じていいのか、天皇の政治利用はいいのか、など、過去から現在に連なる問いを、見るものに投げかけます。

 5日午後7時、6日午後1時・5時、7日午後1時。2500円(事前予約2000円)。予約HP https://ltd-exp.jp

風船爆弾

 風船爆弾 和紙をこんにゃく糊で貼り合わせた気球に15㌔の爆弾や4~5㌔の焼夷弾を搭載し、米国本土の攻撃を狙ったもの。移送は、高層大気のジェット気流を利用。和紙製造は全国の和紙産地が担い、組み立てには女学生などを動員。昼夜の気温差に対応した長時間自動飛行を可能とする機能の開発は、特殊兵器製造・研究を行った旧陸軍・登戸研究所(神奈川県川崎市)などが担いました。9000発以上が飛ばされ、米国で約300個を確認。オレゴン州に飛来した不発弾に触れたピクニック中の教師と生徒計6人が爆死しました。