与謝野町で代行店を営む小山さん

「織物業界に大打撃を与える、最悪の制度だ」―。与謝野町で「静織物」を営む小山静雄さんは、2023年10月から導入されようとしているインボイス制度が実施された場合、業界の存続に関わる悪影響を及ぼすと指摘します。

 インボイスとは適格請求書(請求書や領収書など)のことで、税務署が発行する登録番号の記載が必要なため、課税業者にしか発行できません。インボイスを発行できない免税業者からの仕入れは、仕入税額控除(*)の対象外となります。

 小山さんは「代行店」と呼ばれる京店から西陣帯などの注文を受け、賃機に織ってもらうという両者の取り次ぎを行っています。小山さんによると、業界では代行店を介した取り引が大半を占めているといいます。また、賃機はほぼ全員が免税業者(年間売上1000万円以下)といいます。

 賃機は、インボイス発行のために課税業者となれば、新たに消費税の負担と発行のための事務負担を負うことになります。

 丹後の織物の生産量は激減し、最低工賃も守られておらず、厳しい状況に置かれています。小山さんは「賃機の平均年齢はおよそ70歳。多くの賃機は、課税業者になるくらいなら『もうやめよう』となるのではないか」と危惧(きぐ)します。

 こうしたもとで、自ら課税業者となる賃機と取り引きするという代替案は「非現実的」。やむを得ず免税業者と取り引きを続ければ、その分は自ら負担することになります。小山さんは、「京店に工賃を上げてもらうことも考えられるが、業界の厳しい現状を考えると、難しい」と語ります。いずれにしても、「賃機」「代行店」「京店」のいずれかが負担しなければなりません。

 小山さんは、仮に「代行店」である自分が全額負担することになった場合の消費税額を試算。昨年度の取り引き実績をベースに、免税業者との取り引きで仕入れ税額控除できなかった場合の税額は、できた場合の税額と比較すると、約3・9倍になりました。

昨年所得と同額「生活できない」

 試算は税務署職員にも確認してもらったといいます。「この税額は、昨年度の課税所得とほぼ同額。これでは生活していけなくなる」と不安を口にします。

 「産業全体にこれほど打撃のある政策はない。これでは地域の基幹産業である織物業界が維持できなくなる。丹後の地域経済の底が抜ける最悪の政治だ。この問題は、他の業種にもあてはまる問題であり、経済全体に悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らします。

 *売り上げにかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いた額が、消費税の納税額となります。売上げの消費税を100、仕入れの消費税を80とすると、納税額は20となります。インボイスを発行できない免税業者と取引すると、納税額は100となります。