「デリバリー弁当」の内容を紹介する2019年度の京都市教育委員会のパンフレット

 京都市の選択制給食という名の「デリバリー弁当」(*)を食べるのはクラス30人中わずか1人、2人、コンビニで買ったおにぎりだけの子、教室内を回って弁当持参の子からおかずを分けてもらう子……。中には、冷凍ご飯を家の電子レンジで〝チン〟して、ラップのままそれだけを持ってきた子も──。「これが京都市の中学校給食の風景ですよ。どの子にも温かい給食を食べさせたい。親の切実な願いです」。山科区の公立中学校に子どもを通わせる長田(おさだ)奈央さんは訴えます。

 学校給食法では、中学校でも小学校と同様に給食実施に努めるよう規定されています。ところが京都市は、小学校と同じ「全員制」中学校給食ではなく、2003年度から導入した「選択制」に固執してきました。弁当持参か給食か「選択の範囲が広がる」というのが理由です。選択制の結果、給食「弁当」を食べる生徒の割合(喫食率)は減り続け、15年度で31・1%、18年度は26・7%(文科省5月1日調査では24・2%)に過ぎません。全国の中でも遅れに遅れているのが京都市の中学校給食です。

 文科省調査によると、中学校での「完全給食」(主食とおかず、牛乳)に踏み切る自治体は年々増加。18年5月1日現在で、全国の公立中学校の完全給食実施率(生徒数比)は85・3%に達します。

 背景には、保護者らの要望と運動とともに、16年度から国の第3次食育推進基本計画で「中学校給食の実施率を上げる」が目標になったことがあります。

 全員制給食を実施する政令市は、今年度から大阪、静岡両市が加わり、20市中12市となりました。京都府内26市町村のうち、全員制給食に背を向けているのは京都と亀岡の2市だけです。

 京都市の給食をめぐる問題は、これだけではありません。73中学校のうち6校の施設一体型・小中一貫校に限って、自校方式の全員制給食を実施する学校間格差です。小学校と同じ温かい給食を食べている子どもたちがいる一方で、家庭でも学校でも十分な食事がとれない子どもが放置されてきました。

 もう一つは、家庭の経済格差を解消し、食育の生きた教材である給食が、持参弁当か給食「弁当」かで差別化され、子どもたちの心を傷つけている点です。

就学援助対象でも半数程度

 学校によっては、給食を食べる生徒がクラスの数人に限られ、給食を申し込みづらくさせています。就学援助制度では給食費の保護者負担は不要となるのに、同制度を利用する生徒の喫食率(17年度)は、要保護(生活保護世帯)で61・3%、準要保護で51・9%。半数強にとどまります。

 生活保護を利用し、中学2年の男子を持つ南区のシングルマザーは嘆きます。「子どもがみんなと同じがいいと給食弁当を嫌がるんです。でも、給食を食べてくれたら家計にも、子どもの栄養の面でもどれだけ助かるか」

 今年3月まで中学校で給食「弁当」を食べていた北区の高校1年の女子生徒から、こんな声が飛び出しました。「市の中学校給食には愛がないよ。みんなで同じものを食べるから一体感も仲間意識も育つ。これが本当の給食じゃないのかな」

 一方、小中一貫校となり4月から全員制中学校給食が始まった伏見区向島地域。「給食が楽しみ。おかわりする」(中学2年男子)。歓迎する声が次々と聞こえてきました。

 他の自治体も同様です。昨年度、自校直営方式で給食をスタートした久御山町。米は久御山産、献立には郷土食を取り入れるなどの温かい食事に、子どもたちの笑顔があふれます。八幡市(17年度から実施)でも給食時間は笑い声が絶えません。同市教育委員会による全中学生と保護者を対象にしたアンケート(17年5月)で、「給食があるほうがよい」などと回答した割合は生徒で68%、保護者は97%にもなりました。

 京都市内では小学校のような温かい全員制給食を求めて、さまざまな団体が粘り強く運動を進めてきました。その一つ、新婦人山科支部の子育て世代でつくる「TUBAKIの会」の代表、梅原ゆりかさんは力を込めました。「市長選は絶好のチャンス。選挙に勝って今度こそ実現させたい」

*教育委員会の栄養士の原案を基に、献立作成委員会が決定した献立に従い、委託業者が調理、配送します。

■成長期の心と体育む/より豊かな学校給食をめざす京都連絡会」事務局長・金井多恵子さん

 「食育基本法」(05年制定)は、「子どもたちに対する食育は、心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるもの」(前文)とうたい、国や地方自治体に食育の推進を「責務」としています。

 「学校給食法」(08年改正)も食育充実のために54年ぶりに改正され、学校給食を教育として実施することが強調されて、中学校給食を実施する自治体が全国でも京都府内でも増えました。

 中学生時代は、大人の体をつくる大切な時期です。安全で豊かな学校給食は、成長期の心と体を育むために欠かせないものです。厚生労働省をはじめとする様々な食事調査でも、給食がある日とない日では、家庭で不足しがちな栄養素を学校給食で補っていることが明らかです。

 ところが京都市の選択制を実施する中学校(65校)では、4人に1人程度しか給食を食べていません。その理由としては、弁当方式(校外委託)で「量の調節ができない」「小学校のようにできたての温かい給食ではない」ことや、周りの目が気になり、申し込みにくいということがあります。

 京都府内で中学校給食が始まった学校では、「午後の授業と部活も頑張れる」「みんなと机を合わせて食べたり、話したり、楽しい時間」など、生徒が感想を寄せています。

 子どもの成長は待ったなしです。京都市は、全員制の給食が実施できない理由を財源がないと説明しています。全国では当たり前の中学校給食を、ぜひ京都市の中学校にも実現できるよう保護者や市民の声を大きく広げたいと思います。

(「週刊京都民報」9月29日付より)