京都市が2016年に「待機児童ゼロ」をPRしたテレビCM。実態と違うと保護者らから怒りの声が広がりました。

 京都市は保育園への入所ができない「待機児童」を6年連続ゼロと発表。しかし、実際の待機児童は例年500人超にのぼり、保護者からは「保育園に入れない」「うちは待機児童です」と怒りの声が次々と上がっています。市の施策は、急増する0~2歳児を対象とする小規模保育事業所(*)頼みの待機児童対策となっており、保育園整備が急務です。

 「私の子は『待機児童』に含まれてなかったんですか。驚きました…」と絶句するのは今年4月に希望した園に入れず、8月から小規模保育園に通い始めた母親(35)。保育園に入れない間は、子どもを抱っこひもで抱えながら自営業の仕事を続けていたといいます。「みんなが希望する保育園に入れるようにしてほしい」

 京都市や国が定義する「待機児童」は、希望した施設に入所できずに辞退した場合などは含みません。実際の待機児童数(保育利用申し込み数から利用児童数を引いた数)は、今年4月時点で570人にのぼります。

 また「6年連続ゼロ」は4月1日時点のみ。10月1日時点の途中入所希望の「待機児童」は毎年発生し、昨年は55人でした。

 昨年9月に保育を申し込み、年度途中の入園ができなかった父親(35)は、「本当は母親が秋から働きたかったけれど、育休を延ばさざるを得なかった。保育園に入りたかったけれど、小規模園になってしまい、もう一度『保活』が必要です。年度途中入園を諦めた人がたくさんいます。もっと保育園を整備してほしい」と怒ります。

 京都市が待機児童対策として増やしているのが小規模保育事業所です。15年の69施設から今年4月時点で131カ所へと倍近く増加。京都市は「京都市未来こどもはぐくみプラン」(15年1月策定)で、0~2歳を小規模保育、3歳以上を幼稚園の預かり保育で確保するとする「量の拡充」を計画してきました。

 小規模保育は2歳児で卒園し、別の保育園を探さなければならず、2度目の「保活」が必要です。

 小規模保育園を卒園後、4歳の子どもを認可外保育園に預けている母親(37)は、「下京区に住んでいて、周辺で探しましたが空きがなく、紹介されたのは北区の保育園だけ。とても通えないので、認可外の保育園にお願いしました。2度目の『保活』は働きながらで、本当に大変。京都市の言うような幼稚園の預かり保育ではやっていけません」と語ります。

小規模園急増で「保育の質」に格差

 急増する小規模保育園では、保育士配置基準が緩和されたり、ビルやマンションの一室で保育が行われているなど、「保育の質」が問われています。同時に、16年から始まった企業主導型保育事業も4月時点で24カ所に増えています。

 小規模保育園に子どもを預ける母親は、「今行っている施設は保育士が配置され、家庭的な保育で気に入っています。見学に行った別の小規模園では子どもに教育用のDVDを見せることを売りにしたり、外遊びが少ないので、希望しませんでした。子どもをしっかり保育してくれる施設がいい」と話します。

 市内で昼間里親時代から約40年間、小規模保育園を運営してきた園長は、「家庭的な保育を望んで小規模園を選ぶ人がいる一方で、『保育園に落ちたから、仕方なく』小規模園に通う保護者もいます。保育士配置が少なかったり、ビルの一室の保育で、本当に子どもの発達を保障できるのか。『保育の質』を保つためにも保育園の整備と保育の中身について、市が役割を果たしてほしい」と話します。

 *小規模保育事業所 定員6~19人で原則0~2歳児の保育を行います。保育所が運営する少人数の分園の移行を想定し保育者全員が保育士のA型、半数が無資格者でよいB型、保育士資格がなくても研修を受ければよいC型の3種類があります。企業主導型保育事業も保育士配置が半数でよいなど大幅に規制が緩和されています。

■保育所整備が急務/京都保育運動連絡会会長、京都華頂大学教授・藤井伸生さん

 10月から幼児教育・保育の無償化(3~5歳児)が始まる中、待機児童問題などの課題は置き去りのままです。京都市がめざす小規模保育事業所を急増させて、幼稚園の預かり保育へ移行させるという方針は、現在の保護者の実態と合わず、矛盾が生まれています。

 待機児童の解消のためには抜本的な保育園整備が不可欠です。国の無償化施策によって、

京都市など保育料の独自減免をしてきた自治体では国の経費が入り、負担が軽減されます。国の無償化の検討会の報告書でも、無償化で自治体の予算に余剰が生じる場合は、子育て支援のさらなる充実に活用することと指摘されています。

 こうした財源を生かしながら、保育園整備、保育士不足解消のためにも、保育士の処遇改善や、子ども一人あたりの配置基準の見直しを市独自で行うべきです。

 保育料無償化にともない、保育料に含まれていた給食のおかずなどの副食費が実費徴収となります。全国で少なくとも100自治体以上が副食費を無償化し、府内でも宇治田原町、井手町、南山城村が無償化します。実費徴収は保護者だけでなく、保育所側の新たな事務負担となり、滞納者への督促なども課題になっています。保護者と事業所の負担軽減のためにも京都市でも無償化すべきです。

「週刊京都民報」10月20日付より